コラム

すべての経済政策が間違っている

2021年10月14日(木)19時45分
衆議院解散

衆議院解散で選挙モードへ(10月14日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<衆院選へ向けて与野党の公約が出揃ったが、経済政策は目を覆いたくなる「日本滅亡」策ばかり。その理由を説明する>

酷いにもほどがある。

衆議院が解散され、衆議院総選挙となったが、各党の公約に掲げられた経済政策があまりに酷すぎる。どの政党の経済政策を採用しても、日本経済は、すぐに破綻するか、少しずつ着実に衰退していくか、いずれにせよ、経済政策によって、日本経済の寿命を敢て短く、半減させている。

経済政策の酷さは、ほかの公約に比べて際立っている。これは経済政策が有権者に愛想をばら撒くのに最も強力だということもあるが、政治家たちが、あまりに経済というものを理解していないからによると思う。そこで、なぜ、それぞれの政策が間違っているのか、日本経済を駄目にする政策であるのか説明しよう。

まず第一に、大きなスローガンの酷さから入ろう。

「新しい資本主義」──これは、実は、一番ましな政策であることに気づいた。なぜなら、新しい資本主義とは意味不明、どんなに贔屓目に見ても、中身がまだ決まっていないが、中身は何もない、というのがせいぜいだから、そう考えると、具体的な被害を経済に与えることはない。デフレ脱却、というのと同じで、呪文に過ぎず、日銀が愚かにも、まじめに額面どおり受け取ったので、おかしなことになっただけだ。

さらにいえば、これは確信犯的なスローガンの可能性もある。具体策がないから、スローガンを言っている間は、具体的な批判がされない、攻撃されにくい、ということだ。さすが、とも言える。

媚びの売り過ぎ「総中流」

一方、「一億総中流社会の復活」というのは、有権者に媚を売り過ぎて、簡単に批判される愚かしいスローガンである。

アベノミクスが、平成元年のバブル再来を求めているに過ぎない、という批判は的確だったのに、これでは、昭和を取り戻せ、しかも、昭和の中でも大昔の1964年の東京オリンピックへのノスタルジーのようなキャッチコピーである。

まず、そもそも一億総中流になったら困る。経済は破綻する。富裕層が中流にまで貧しくなったら、高級品はまったく売れず、日本の消費は激減するだろう。一方、低所得者層の所得を増やせ、という意図は良いが、中流とは呼ばれたくないだろう。中流、というのは、上層と下層がいるから中流があるのであって、全員中流だったら、全員が不満を持つだろう。そこで、激しい一億総出世争いが行われるだろう。少しでもより豊かになりたい、と思ったら、誰かの中流分を削らなければならない。金持ちがいて、貧しい人がいるから、金持ちに課税して、貧しい人々に基礎的な生活を保障する構造ができるのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税

ワールド

ルビオ氏「日米関係は非常に強固」、石破首相発言への

ワールド

エア・インディア墜落、燃料制御スイッチが「オフ」に

ワールド

アングル:シリア医療体制、制裁解除後も荒廃 150
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 6
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 7
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story