コラム

カラチ・コネクション

2010年02月23日(火)11時30分

 先日パキスタンのカラチに住む友人のジャーナリストと話していた時のこと。何時間か前に爆弾テロが発生し、カメラマンを現場に派遣したばかりだと言う。

 彼は、「連中は金融都市のカラチにも侵入してきている」と嘆いていた。「連中」とは、パキスタン・タリバン運動の過激派のことではない。パキスタンのアフガン国境地域に逃げ込んでいたアフガニスタンのタリバンを指している。

 というのもパキスタン・タリバンは実際のところ、NWFP(北西辺境州)とFATA(連邦直轄部族地域)で昨年から続くパキスタン軍の掃討作戦から逃れるために、すでに南部のカラチにまで入り込んでいた。さらに、地元のギャング団と手を組んで犯罪行為に加担しているとも言われていた。

 報道によると、友人と話す前に発生した2月5日の爆弾テロでは、スンニ派武装組織がシーア派を狙い撃ちにして、少なくとも31人が死亡した。シーア派を狙ったテロは昨年後半から何度も発生している。それほどまでに、パキスタンではタリバンの存在感が増している。

 先日、アフガニスタンのタリバンのNO.2といわれるムッラー・バラダルがカラチ近郊で拘束された。彼はタリバンが94~96年に台頭する前から、アフガン南部でタリバンの最高指導者オマル師と生活をともにし、01年に米軍がカンダハルを攻撃した際にも共にいたほどの側近だ。

 ただ皮肉なことにタリバン政権崩壊以降に立ち上がった若いタリバン兵は、過激なテロ組織アルカイダの考え方により近いといわれる。穏健派とも言われるバラダルの逮捕は、911以前の古いタリバンの衰退を意味するとの向きもある。

 バルチスタン州クエッタにいると言われてきたオマルは昨年末、カラチに潜伏しているとの話が出ていた。そうだとしても、今回のバラダルの逮捕で、彼がまた別の場所に姿をくらましたと見るのが普通だ。

 ただ「偶然に」逮捕できたとするパキスタン政府がわざとNO.2を拘束して、他国からのオマルへの注意をそらした可能性もないとはいえない(今回の逮捕はCIAとパキスタン軍統合情報局の合同作戦だったとの話もあるが、実際は後者が主導したとの見方が強い)。1つだけ確実なことは、今回の逮捕で、パキスタンがアフガンのタリバン勢力を掃討するよう圧力をかけ続けるアメリカの溜飲を多少下げたことだ。

 タリバンの穏健派を懐柔しようとするアフガニスタンのカルザイ政権はすでにモルジブなどでタリバン幹部と会談を行ったとの報道もあるし、パキスタン政府はアフガニスタンとタリバンとの橋渡しをアメリカに申し出ている。

 この時期にパキスタンがタリバン幹部の居所をつかんでいると暗に示すことは、アフガニスタン安定に「関与(決していい意味で、ではない)」したいパキスタンにとって非常に重大な意味を持っているといえる。

――編集部・山田敏弘

このブログの他の記事も読む

  バンクーバー五輪の環境「銅メダル」は本物か

  キャンプ・シュワブ陸上案もダメな理由

  『プレシャス』で魅せたモニーク

  積雪80cmは、序の口?!

  ビル・クリントンに寝だめのすすめ

  世界報道写真展:審査の裏側

  イルカ猟告発映画『ザ・コーヴ』は衝撃的か

  ミシェル・オバマの肥満撲滅大作戦


プロフィール

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story