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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
世界報道写真コンテスト:審査の裏側
昨年1年間に世界中のメディアで発表された写真の中から最高峰を決める世界報道写真コンテスト(World Press Photo)の審査員として、2月3日〜13日までアムステルダムに行ってきました。世界的に最も権威ある写真コンテストのひとつで、12日に各賞が発表されました(関連記事)。受賞作品は展覧会として世界中を毎年巡回しており、日本でも「世界報道写真展」として国内数カ所を巡回していますので、ご存じの方も多いと思います。
審査は極めてたいへんな作業でした。大賞の他に細かくスポットニュース、社会問題、スポーツなどの10カテゴリーに分かれ、それらがさらに組写真(ストーリー)、単写真(シングル)の部門に分かれるので、2ラウンドの審査期間中に10万1060点の作品の中から20部門の1〜3位を選び、さらに大賞を決めます。初期段階では写真が大きなプロジェクターで映し出されボタンを押してジャッジしますが、多数決で落選した作品でも、自分が納得できない場合はキリのよいところで見直し、理由を説明して議論します。企画のプレゼンのようですね。何度も異論が出て全く進まない時もありました。
また、写真家は番号制で名前が伏せられ、審査員自身が何らかの形で関わった作品については説明義務があり、公正が保たれます。他の審査員は米ナショナル ジオグラフィック誌、英ガーディアン・ウィークエンド誌などのフォトエディターや有名写真家で、フォトジャーナリズム、撮影方法やストーリーの構成、評価の視点、撮影後の写真の扱いなどあらゆる点においての突っ込んだ意見交換は、多くを学んだ10日間でした。ある晩オランダ王室のコンスタンティン王子が激励に現れて驚いたことも。
今年の応募作品には、世界中のメディアが大挙して押し寄せた大事件、大災害、イベントが比較的少なかったことで、作品の弱さを危惧する向きもありましたが、結果的には、被写体へのアプローチや撮影方法のユニークさ、コンセプトの面白さなどを感じられるバラエティに飛んだ入賞者リストになったと思います。
今回の大賞には「世界報道写真」と言われてすぐ思い浮かぶような激しい衝突や嘆く人、兵士、遺体などが写っていません。まず美しく静かな中にある強い緊張感に引き込まれ、世界中に報道された大ニュースがごく普通の日常にうごめき、彼らに何が起こっているのかを深く考えされられる作品です。この写真を大賞に選ぶのは審査員たちにとってある意味チャレンジで、議論も白熱し長い時間をかけて各自の意見を出し尽くした上での投票になりました。大賞には今年も含めて毎回賛否両論が欧米写真業界を中心に巻き起こりますが、読者の皆さんにはどう映るでしょうか。
さて、本誌には写真特集ページ「ピクチャーパワー」という連載があります。掲載作品のうち、今回のコンテストに入賞した「母なるイングランドを探して」、「俺たちは数時間前に大統領を殺した」は、本誌ウェブサイトで見ることができます。また、2月11日号掲載ピーター・ビアブルゼスキの「都会の陰に潜む失われた楽園」、今回は別作品で入賞したユージン・リチャーズの作品、ピクチャーパワー以外でも昨年1月巻頭を飾ったチャールズ・オマニーのオバマ大統領就任式の写真などをはじめ多くの秀作を掲載しています。
是非、本誌の写真にご注目ください。
関連記事:世界報道写真コンテスト「今年最高の一枚」など存在しない
――編集部・片岡英子
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