コラム

世界報道写真コンテスト:「今年最高の一枚」など存在しない

2010年02月23日(火)14時39分

 2月12日に発表された世界報道写真コンテストの大賞「抗議の叫び」をめぐり、ブログの世界では賛否が渦巻いている。世界を「新しい」角度から見せてくれたと大賞受賞作を支持する声がある一方、「本物の」ジャーナリズムではないと非難する声も大きい。

 まだ受賞作の数々をつぶさに見たわけではないのでコメントは控えるべきだが、この話はしておこう。私が世界報道写真コンテストの審査員長を務めた08年も、審査員は激しい批判にさらされた。大賞を受賞したのは、ティム・へザーリントンの「アフガニスタンのコレンガル渓谷の掩蔽壕で休息を取る米軍兵士」。ピントがぼけた写真は大賞にふさわしくない、選出に政治的な意図が感じられるとたたかれたのだ。

 私は3年間、同コンテストの審査員に名を連ねたが、審査の過程で政治が取りざたされたことは1度もない。政治は話題にすら上らなかった。

 審査員長を務めるにあたって、私はまず、自分なりに解釈した審査のルールを審査員に説明した。審査すべきは写真家が目にしたものをいかに表現したかであり、被写体の持つ政治性ではない、と。

 こうした経験を通じて私が感じたのは、写真コンテストに内在する4つの真実だ。

1)受賞の正当性や選ばれた動機を批判する人間は必ずいるし、逆に支持する人間も同じだけいる。コンテストの結果に満足するのはただ1人、大賞の受賞者だけだ。

2)審査員の顔ぶれが変われば、選ばれる作品は変わるだろう。それでも批判されることに変わりはない。それに、もし審査員が同じでも、別の日に審査を行えば違う結果が出るかもしれない。

3)「今年最高の1枚」は存在しない。そんな写真を選ぶのは不可能だ。私が審査に参加したときも、誰もが1枚を選ぶという作業を嫌がった。だがコンテストなのだから、選ばないわけにはいかない。

4)翌年の審査員に批判が集中すれば、前年の騒ぎは自然と鎮まる。

 今年の審査結果が物議を醸すなか、へザリントンの写真が大賞にふさわしい傑作と称賛されるようになったのは、うれしい皮肉だ。2年間、待った甲斐があったというものだ。

関連記事 1:世界報道写真コンテスト 2010年審査員として参加した本誌フォトディレクターが見た審査の裏側
関連記事 2:世界報道写真コンテスト「抗議の叫び」が大賞に

プロフィール

ゲイリー・ナイト

1964年、イギリス生まれ。Newsweek誌契約フォトグラファー。写真エージェンシー「セブン(VII)」の共同創設者。季刊誌「ディスパッチズ(Dispatches)」のエディター兼アートディレクターでもある。カンボジアの「アンコール写真祭」を創設したり、08年には世界報道写真コンテストの審査員長を務めたりするなど、報道写真界で最も影響力のある1人。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ビジネス

マスク氏のxAI、債務と株式で50億ドルずつ調達=

ワールド

米政府、資源開発資金の申請簡素化 判断迅速化へ

ワールド

訂正-セビリアで国連会議開幕、開発推進を表明 トラ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story