コラム

ミシェル・オバマの肥満撲滅大作戦

2010年02月18日(木)18時10分

 太っているのは自制心が足りないからだとして肥満の人への攻撃が強まっているアメリカの風潮をリポートした記事が、本誌先週号に掲載されている(「肥満大国に広がる肥満バッシング」、2月17日号)。記事にあるように、実際には太り過ぎは「心がけ」だけの問題ではないのだが、肥満の増加が医療費高騰に直結する深刻な課題なのは事実。アメリカ人が痩せられない原因の一つは幼少期からの食生活や生活習慣にある、ということで、オバマ政権は子供の肥満撲滅に本気で乗り出すことにした。

 主導するのは、ファーストレディのミシェル・オバマ。ミシェルは2月9日に会見を開き、官民を巻き込んだ全米規模の子供の肥満撲滅キャンペーン「レッツ・ムーブ」の立ち上げを発表した。ホワイトハウスに来て1年余り、2人の娘のワシントン生活のサポートを優先してきたミシェルも、ついに本格的な「政治デビュー」を果たしたことになる。
 
 アメリカでは子供の3分の1近くが太り気味か肥満で、2000年生まれの子供の3分の1がいずれ糖尿病になるとの予測もある。太り過ぎで軍に入隊できないケースも増えており、このままでは国家の安全保障まで脅かしかねない(2月10日発行の医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンでも、子供時代に肥満だった人は55歳以前に死ぬリスクが高いという調査結果が発表されたばかりだ)。

 今回のキャンペーンの中心は、家庭や学校で栄養バランスのいい食事が提供される仕組みづくり。学校給食に含まれる塩分や糖分、脂肪が減らされるほか、学校内でのジャンクフードの販売を禁じたり、炭酸飲料や食品のカロリー・栄養表示を子供にもわかりやすい形に改善することなどが挙げられている。またミシェルは、学校に徒歩で通えるように歩道を整備するなど、子供が育つ環境全般への働きかけも検討している(アメリカはスクールバスでの通学が多い)。

 もっとも、肥満はアイゼンハワー以来、米政権がたびたび取り組んでは挫折してきた苦手分野。何を食べ、何を飲むかという極めて個人的な選択について政府にとやかく言われたくないという国民性は大きなネックだ。

 さらに、栄養バランスより低コストを優先したい食品・飲料業界や学校給食業者も当然、猛反発している・・・・・・と思いきや、意外と好意的で、自発的な協力を申し出ているという。

 ただし、これはいいサインではない。どんなに規制したところで、アメリカ人は結局ジャンクフードを手放せないのだから、ひとまずミシェルに協力して、健康コンシャスな企業イメージをアピールしたほうが得策だと考えている証かもしれない。
 
 ミシェルの挑戦が成功すれば、医療費を抑制できていないと批判されている夫への強力な援護射撃になる。だがこのままでは、ファーストレディ時代に医療保険改革に挑んで失敗したヒラリー・クリントンの二の舞になる可能性は小さくなさそうだ。

――編集部・井口景子

他の記事も読む

不遜なギリシャ首相はタダ者じゃない?

スポーツに政治を持ちこまない...わけにはいかない

中国政治「序列」の読み方

ユーロ危機を予測していたフリードマン

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進

ワールド

トランプ氏、鉄鋼・アルミ関税50%に引き上げ表明 

ワールド

日鉄は「素晴らしいパートナー」とトランプ氏、買収承
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 7
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 8
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 9
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 10
    第三次大戦はもう始まっている...「死の4人組」と「…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story