コラム

タリバン幹部拘束で彼らが犯したミス

2010年02月17日(水)19時05分

 

情報は本物か タリバンは幹部の拘束を否定している(写真は昨年10月、アフガニスタンのタリバン兵)
Reuters
 


2月15日付けのニューヨーク・タイムズ紙が大きなスクープをものにした。米中央情報局(CIA)とパキスタン軍情報機関(ISI)の合同作戦により、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンのナンバー2が拘束されたという。

 捕まったのは、タリバンの最高指導者ムハマド・オマル師の右腕で、伝説的な戦闘指揮官でもあるアブドゥル・ガニ・バラダル司令官。タイムズ紙は2月11日にこの情報を掴んだが、ホワイトハウスの要請でこれまで報道を見合わせてきたという。

 ニューズウィーク誌は昨年夏、バラダルの地位を次のように報じている


 タリバン兵や元タリバン兵20人以上の証言によればバラダルは、表に出たがらないオマル師の単なる代役ではない。

 バラダルはタリバン軍の司令官やタリバン支配地域の州知事の任免権をもち、アフガニスタン国境に近いタリバン指導部の潜伏地であるパキスタン南西部のクエッタで行われる最高軍事評議会や最高評議会(シューラ)の主導権も握っている。

 タリバンの最重要方針についての発表も、バラダルの名前で行われる。何より重要なのは、彼がタリバンの「国庫」を支配していることだ。麻薬密売の護衛や脅迫、道路通行税の徴収や湾岸諸国からの「義援金」などで集めた数億ドルの資金だ。

「彼は軍と政治、宗教、それに財政のすべてを掌握している」と、アフガニスタン南部のヘルマンド州でゲリラ部隊の副司令官を務めるムラー・シャー・ワリ・アクンドは言う。彼はこれまでに4回バラダルに会った。最後は3月で、場所はクエッタだったという。

「彼は優れた指導者になる素質をもっている」と、米海軍大学院教授でアフガニスタンが専門のトーマス・ジョンソンは言う。「彼は有能でカリスマもあり、われわれには望むべくもないほど地形と住民をよく知っている。強敵になるかもしれない」


■パキスタン・タリバンに近づき過ぎた

 だが、パキスタンのカラチで捕まったバラダルは、ニューズウィークのインタビューに次のような嘘もついていた。


──アフガニスタンのカルザイ大統領と米政府は、タリバン指導部の主な活動拠点はパキスタンのクエッタだと言っているが本当か。  根拠のないプロパガンダだ。シューラはアフガニスタン国内で活動している。


 アフガニスタンのタリバンが犯した重大なミスは、パキスタンのタリバンに近づき過ぎたことではないだろうか。パキスタンのタリバンは、昨年末カラチで43人が犠牲になった自爆テロで犯行声明を出しており、それまでアフガニスタンのタリバンを支援してきたパキスタン軍や情報機関まで敵に回してしまった。

 昨年春ごろからは、パキスタンのタリバンがカラチに拠点を作りつつあるという報道もあったが、ここでも彼らは間違いを犯したようだ。アフガニスタンやパキスタンの山岳地帯にいたタリバン兵がカラチのような国際商業都市に出てくれば、場違いでさぞかし目立つだろう。

──ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2010年02月15日(月)21時59分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 17/2/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、財務長官に投資家ベッセント氏指名 減税

ワールド

トランプ氏、CDC長官に医師のデーブ・ウェルドン元

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story