モルディブ大統領選挙での親中派現職の敗北──それでも中国の「楽園」進出は止まらない
ザンビアの場合、サタ政権発足後も、中国からの資金協力は旧宗主国イギリスなど西側からの援助額を上回った。これに加えて、反中感情が広がったとしても、歴史的に因縁のある欧米諸国への反感が根深いことも、サタ政権が中国との関係を断絶できない一因となった。
これはモルディブに関しても同じとみられる。
ウィリアム・アンド・メアリー大学の統計によると、2000年から2014年までに中国がモルディブで行った資金協力は8億5185万ドルを上回る。これは旧宗主国のイギリス(537万ドル)やアメリカ(264万ドル)、日本(1億5127万ドル)をしのぐ(世界銀行のデータ)。
そのため、ソリ氏はインドや欧米諸国との関係改善を強調しながらも、選挙期間中から中国をあからさまに批判することを控え、「他のリーダーが中国ほど大きなポケットをもっていないのだから」中国をシャットアウトすることはほとんどの国にとって選択肢にならないと述べてきた。外交辞令といえばそれまでだが、中国以上に資金を提供する国がない以上、ソリ政権にとって中国と必要以上に対立するのが得策でないことは確かだ。
つまり、親中派「独裁者」が退場したからといって、それだけではモルディブが中国との関係を制限することも、この国で中国企業の存在感が西側のそれより小さくなることも想定できないのである。
ブロックなき冷戦
親中的な大統領が退陣したとしても、その国が反中一辺倒になるとは限らず、中国と関わりをもち続けざるを得ない状況は、冷戦時代と決定的に異なる。
冷戦時代、ソ連に敵対する国はほぼ自動的にアメリカに接近し、逆もまた然りであった。当時、世界は「白か黒か」というオセロゲームのような陣取り合戦の舞台だったといえる。
これに対して、現在のゲームはより複雑だ。
米中の貿易戦争が激化するにつれ、世界が再び冷戦に逆戻りするという観測は多い。ただし、協力関係が固定的だった冷戦時代と異なり、現代ではブロックがより曖昧で流動的になりやすく、ほとんどの場合、一つの国を「親中、反中(親米、反米も同じ)」と表現することも困難になりやすい。
現代の新しいタイプの陣取り合戦の特徴に鑑みれば、今回の政権交代は、モルディブや世界で今後長く続く大国間の綱引きの一つの通過点に過ぎないとみられるのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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