コラム

ドイツに訪れる「アベノミクスと同様」の大変化、日本が抜け出せない「緊縮病の宿痾」

2025年03月19日(水)11時50分

もう一つ重要な点は、歳出拡大と同時に増税政策が打ち出されていないことで、現在の連立政権の首脳は減税が必要と認識している。インフラ・防衛関連の歳出拡大がほぼそのまま拡張財政として経済成長率を押し上げるため、2025年後半からドイツを中心に欧州経済は経済停滞から脱するだろう。

移民問題、ウクライナ紛争という脅威の中で

今回のドイツの政策転換が、GDO成長率をどの程度高めるかについては様々な議論がある。ドイツ以外の欧州の国での防衛費増額がどの程度実現するかなど不確定な要因もまだ残っている。

ただ、ドイツのこの政治決断は、金融市場の姿を一変させるインパクトを持つ大きな変化だと判断される。2013年のアベノミクス発動後に、日本の金融市場が大きく変わったことと同様の変化が想定される。

ドイツの政策転換の背景には、トランプ政権誕生によるロシアをめぐる安全保障環境の変化がある。そして、メルツ氏が新首相となることは、長年ドイツの政治リーダーとして君臨したメルケル体制から、国内政治体制そしてEUの枠組みに対する姿勢にまで及び、大きな変化が起きることを意味する。

ドイツが厳格な緊縮財政政策を続けてきた一つの理由は、欧州統合が政治的な最優先事項とされ、中核国であるドイツは財政健全化を崩すのが難しかったことだ。メルケル時代までこれが徹底され続けたが、こうした中で2010年代以降ドイツ経済の停滞が続いた。さらに移民問題やウクライナ紛争という脅威が起きたことで、メルケルの長年の政敵であったメルツ氏が新たなリーダーとなったのである。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米輸入物価、3月は‐0.1% エネルギー価格低下で

ワールド

カナダ、報復関税の一部免除へ 自動車メーカーなど

ワールド

米アップル、3月にiPhoneを駆け込み空輸 イン

ワールド

NATO事務総長「揺るぎない支援」再表明、オデーサ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 7
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    そんなにむしって大丈夫? 昼寝中の猫から毛を「引…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story