コラム

強権にして繊細な男、若松孝二の青春を『止められるか、俺たちを』に見よ

2020年09月09日(水)18時45分

その若松が交通事故で没してから6年後の2018年、若松プロダクションの若い世代が初期の若松プロを舞台に、青春映画『止められるか、俺たちを』を撮った。内容はまさしくタイトルどおり。若松が強権だけのタイプではないこともよく分かる。

映り込んでいる若松プロ黎明期の男や女たちは、現在の若松プロに集う男や女たちの写し絵でもある。主人公の女性助監督をめぐるストーリーも実話なのだ。若松本人を演じるのは若松映画の常連である井浦新。監督と脚本は共に若松プロ出身である白石和彌と井上淳一。撮影も若松プロ常連の辻智彦。つまり本作はメタ構造の映画だ。ドラマでありながらメイキングでもある。

もしも若松がこの映画を観たのなら、「まったく無駄な金を使いやがって」とぶつぶつ言ってから、「飲みに行くぞ」とつぶやくはずだ。

Mori200908_Wakamatsu2.jpg『止められるか、俺たちを』(2018年)
監督/白石和彌
出演/門脇麦、井浦新

<本誌2020年4月28日号掲載>

【関連記事】「顔の俳優」高倉健は遺作『あなたへ』でも無言で魅せた
【関連記事】若かりしショーケンと田中邦衛の青春映画『アフリカの光』をDVDでは観ない理由

20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story