コラム

「予測不能」なトランプの行動を予測する──今こそ、日本でも夜明けを迎える「未来学」

2025年01月22日(水)17時22分

以下では、未来学に込めたオーストラリアの未来学者ギドリー氏の未来に込めた思いを紹介したい。

※『未来学 人類三千年の〈夢〉の歴史』「イントロダクション」より一部改変して掲載

「未来はユートピア的な場所なのか?」

未来史家はしばしば、近い未来の概念の証拠としてユートピア文学に注目する。ユートピアについて簡便に考察することで、未来がまだ来ていない時間として考えられるのか、それとも私たちの恐怖や願望が誇張的に表された想像上の場所なのかが見えてくるだろう。想像上の理想郷としてのユートピアは、しばしば未来と結びつけられる。さらに、SF映画で頻繁に描かれるような恐ろしい未来は、「ディストピア」と呼ばれる。基本的に、ユートピアとディストピアは、「今、ここ」ではないどこかほかの場所で起こる、望ましい未来と恐れられている未来についての物語である。しかし、ユートピア/ディストピア、未来、場所、時間という概念の間には、もっと複雑な関係が綯い交ぜになっている。

今日私たちが知っているようなユートピアというジャンルは、文明のユートピアモデルを創り出そうとした最初の本格的な試みと広く解されているプラトンの『国家』としての古代ギリシャに端を発する。より正確に言えばより正確には、それは「eu-topia」、つまり「良い場所」という意味だった。これは、後進にとって、より完璧な暮らしが営まれる場所の理想化されたビジョンを描くための礎を築いた。逆説的だが、ギリシャの哲学者たちが直線的な時間(過去、現在、未来)の概念を提唱していた古代史のまさにその時期に、プラトンの『国家』から始まる「空想の場所としてのユートピア」という考え方が登場したのである。ライマン・タワー・サージェント(Lyman Tower Sargent)は、「A Very Short Introduction」シリーズの『ユートピア主義(Utopianism)』の中で、古典的なギリシャやローマで始まった形式的なユートピアと、過去の黄金時代に思いを馳せる以前のユートピア神話とを峻別している。1500年代初頭にトマス・モア(Thomas More, 1478-1535)が『ユートピア』を書くまでその言葉は使われなかったため、それ以前の国家は当時ユートピアとは呼ばれなかった。初期のユートピアは「別の場所」に根ざしていたため、未来(または「別の時間」)に影響を与える潜在性は、明示的というよりは暗示的なものだった。そのようなユートピアの物語は、未来において物事がどのように違った形で行われ得るかについて密かに暗示する、より良い場所のたとえ話だった。場所に関する簡潔なディストピアの初期の例は、「聖ゲオルギオスと竜」("The legend of Saint George and the Dragon")の神話である。事実に基づくものであれ、フィクションであれ、紀元千年紀の初期において、ディストピアは比較的単純で二元論的なものであったと教えてくれるのはナラティブ(narrative)である。すなわち、村がドラゴンに脅かされ、勇敢な若者がドラゴンを退治し、村は無事で、特に囚われた姫君は無事で、ユートピア的な単純で幸せな暮らしを取り戻す。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン副大統領、トランプ氏の「合理的行動」に期待

ワールド

フーシ派、日本郵船運航船の乗員解放 拿捕から1年2

ワールド

米との関係懸念せず、トランプ政権下でも交流継続=南

ワールド

JPモルガンCEO、マスク氏を支持 「われわれのア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 8
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story