コラム

ソ連の行く末を言い当てた「未来学」...今こそ知るべき4人の権威が見通していたこと

2022年07月14日(木)17時26分

アルビン・トフラー(Alvin Toffler)

世界で最も高名な未来学者・フューチャリストの一人と言われるのがアルビン・トフラー(1928~2016年)だろう。著書を読んだことがなくとも、『未来の衝撃』(原題:Future Shock、1970年)や『第三の波』(原題:The Third Wave、1980年)の書名は聞いたことがあるのではないだろうか。

ニューヨークで生まれ育ったトフラーは、大学卒業後に金属鋳造の修理工や溶接工として働きながら、商品が大量に生産され、消費される社会に対する疑問を肌身で感じた。そうした経験を土台とし、新聞記者、コラムニスト、コンサルタントといった異色の経歴を歩む。

『未来の衝撃』は世界で販売数数千万部もの爆発的なヒットを記録した。和訳書のサブタイトルは『激変する社会にどう対応するか』。情報化社会へと突き進む世界のありようとその後をつぶさに読み解いていった。社会が当時と比べて一層加速度的に激変している現代に生きていたら、トフラーは何を感じ、伝えただろうか。

情報化社会を予見し、見事に的確に言い当てた『第三の波』も、40 年以上前の刊行書でありながら、今なお多分に示唆的だ。人類による農業の興りが第一の波、産業革命が第二の波、そして第三の波としての情報化社会。その先にある世界とは、第四の波があるとすれば、それは何であろうか。デジタル化をそれと呼ぶ見方もあるが、今起きている世界の変化はもっと大きな、人間のあり方、生き方を根底から覆すような胎動ではないか。脳波、非言語コミュニケーション、動植物との会話──検討すべき論点は多い。

アーサー・クラーク(Arthur Clarke)

今回紹介する最後の一人はSF作家のアーサー・クラーク(1917~2008年)である。その名を知らずとも映画『2001年宇宙の旅』(原題:2001: A Space Odyssey)なら観たことがある人も多いのではないだろうか。クラークが脚本を担い、スタンレー・キューブリック監督のもとで1968年に映画化された。クラークによる同名の小説は、映画公開後まもなくして刊行された。

ホモサピエンスの先祖たる原始的な「ヒトザル」の眼前に、突如として現れる謎の石柱「モノリス」。映画はイントロのシーンで見る者を一気に惹きつける。

SFでありながら、真実味を帯びた描写は、現実以上に現実的とさえ言える。半世紀以上前にそうした作品が撮られた技術力、創造力はもとより、逞しい想像力に驚愕するばかりだ。

リアリティに溢れた描写の数々は、クラークと宇宙飛行士との親交から紡ぎ出された賜物とも言える。『2001年宇宙の旅』はSFでありながら文部省(現・文部科学省)の特選映画に指定されたほどだ。現実世界を考えるうえで想像力を掻き立ててくれる作品と見られていた。

同作品に限らず、時空間を超えて来たる世界を描いたクラークの作品に影響を受けた宇宙飛行士や科学者、あるいは映画監督は数知れない。クラークは、「ロボット三原則」を打ち立てたアイザック・アシモフやロバート・A・ハインラインと共に、「SF界のビッグ・スリー」として並び称されている。

こうした20世紀後半に頭角を現したフューチャリストの想像力と創造力に彩られ、未来学は徐々に実社会で応用されつつ、確かな地歩を占めていった。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、1人死亡 エネ施設

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story