コラム

かんぽ生命不正販売、3人謝罪会見が象徴する「責任の分散」という要因

2019年08月23日(金)16時15分

「かんぽ生命不正販売」謝罪会見3人の微妙な関係

7月31日に行われた「かんぽ生命の不正販売」の謝罪会見の様子を思い出してほしい。日本郵政の長門正貢社長は、かんぽ生命の植平光彦社長、販売を担う日本郵便の横山邦男社長とともに記者会見に現れた(例えばSankeiNewsによるライブ配信など、会見の動画はYouTubeで見られる)。

グループの責任者である長門氏は、1972年に日本興業銀行からキャリアをスタートさせ、2015年5月にゆうちょ銀行取締役兼代表執行役社長に就任している。翌月には日本郵政の取締役、翌年の2016年4月には日本郵政の取締役兼代表執行役社長に就いている。

かんぽ生命の植平氏は、1979年に東京海上火災からキャリアをスタートさせ、2013年6月からかんぽ生命保険の常務執行役に就任している。2017年6月からは同社の取締役兼代表執行役社長に就いている。

日本郵便の横山氏は、1981年に住友銀行からキャリアをスタートさせ、2016年6月にいきなり日本郵便の代表取締役社長兼執行役員社長に就任している。

正式な役職名で書いたので長たらしいが、要するに長門氏は2016年に日本郵政の社長、植平氏は2017年にかんぽ生命の社長、横山氏は2016年に日本郵便の社長になっている。

何かを感じていながらも、誰も止められない。それが「責任の分散」

その後、8月5日付けの西日本新聞ではこう報じられている。


かんぽ生命保険が、昨年6月時点で一連の不正販売の実態を把握していたことが明らかになった。西日本新聞が入手した内部資料によると、部長級の幹部が出席した毎月の会議で、不正販売が疑われる事例が詳細に報告され、改善策も打ち出していた。

また、8月6日付の日経新聞にはこうあった。


かんぽ生命保険が保険料の二重払いなどに関する顧客の苦情を受け、2017年4月~19年1月の約2年間で計1097件の保険料を全額返還していたことがわかった。こうした数字は部長らが出席する社内会議で共有されていた。

しかし、7月31日の記者会見では、長門社長らは「不正を認識したのは今年6月」と語っていた。不正の認識がどこまであったかは定かではないが、ここで問題にしたいのは、不正の認識の時期についてではない。

報道が事実であれば、不正販売が疑われる事例に対する改善策や、保険料の二重払いへの返還対応が取られているので、不健全な販売方法があったことは薄々とは感じていたはずだ。しかし、トップの誰も止められなかった。

各社のトップ3人それぞれが名だたる金融機関出身で、日本郵政の長門氏のほうが、かんぽ生命の植平氏より年齢が上ではあるが、郵政グループ入りしたのは植平氏のほうが3年早い。しかも植平氏は、郵政グループではかんぽ保険一筋だ。

販売を担当した日本郵便の横山氏は、2016年にいきなり社長になっている。それまで業績に貢献してきたと言われていた販売手法について、ダメだと言う勇気がどこまであっただろうか。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、米政府と契約の仏企業に多様性プログラ

ビジネス

中国国有4行が資本増強、公的資金注入などで716億

ビジネス

中国3月製造業PMIは50.5に上昇

ビジネス

中国非製造業PMI、3月は50.8に上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story