コラム

かんぽ生命不正販売、3人謝罪会見が象徴する「責任の分散」という要因

2019年08月23日(金)16時15分

以前からやっている方法であり、民間らしいと評価されている方法じゃないか。誰も絶対にダメなこととは言わないんじゃないか。本当に悪い部分だけ何とかすれば、それで済むのではないか。

3人の脳裏にはきっと、このような想いが浮かんだのではないか。3人の責任の範囲も微妙な状況で、前任の経営者まで否定することへの躊躇の気持ちも重なり、どこかで「責任の分散」が起こった可能性がある。

絶対に変えるという覚悟を誰も持たないまま、問題が大きくなっていった可能性があるのだ。

「スルガ銀行不正融資」、社員は会社をあきらめていた

一方、昨年世間を騒がせた「スルガ銀行の不正融資」問題では、昨年の9月に第三者委員会による報告書がまとめられている。その中では、社員の間に「責任の分散」が起きていたことが如実にレポートされている。報告書の中で、「『通報すれば改善されるのではないか』という期待が従業員には全くなかった」と指摘しているのだ。

もちろん、この報告書は、人事評価の仕組みに関する問題も指摘している。人事評価が特定の役員の意向で決められていたというのである。

そのような状況では、匿名性への信頼がなく社内の通報制度が機能しなかった部分も大きいと思われるが、同時に「どうせ無駄だから」「取り合ってもらえないから」という回答も多かったと記されている。明らかに社員は、自分には解決する役割などないと考え、やがて「傍観者」のようになり、「責任の分散」が起き、そして自らも悪事に手を染めていったのだ。

不正が蔓延する組織では、経営層にも社員にも「責任の分散」が生まれ、誰も本気で変えようとしない。やがて組織が腐っていく。

星野リゾートには、「責任の分散」を起こさせない仕組みがある

逆に、元気な会社、盛隆に向かう会社には、「責任の分散」を起こさせない仕組みが機能している。

例えば、星野リゾートを見てみよう。中核ブランドの「星のや」や「界」などだけでなく、最近では都市観光のためのホテル「OMO」の展開や重要文化財である「旧奈良監獄」を活用したホテル運営など、良い意味で世間を賑わせている。

筆者も星のやのファンであり、サービス業の研究対象として宿泊しているが、先日こんな経験をした。

「星のや東京」に宿泊した際に、「星のや京都」で見かけた従業員を発見したのだ。その従業員は確かに星のや京都に居られた方で、久しくその話題で盛り上がった。筆者は星のやでは2泊以上の連泊をすることが多いのだが、その従業員は翌日も、筆者の部屋があるフロアを担当してくれた。

帰り際に、「あなたがこのフロア担当でよかったです」と挨拶すると、「お客様が居られたので、担当のフロアを代わってもらったのです」とのこと。なんと、このフロアを担当することを自ら決め、周囲の了承を取り、自らサービスをしてくれていたのだ。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story