コラム

日本企業に蔓延し始めた「リファラル・ハラスメント」

2019年07月08日(月)16時45分

PeopleImages-iStock.

<社員が候補者を紹介する「リファラル採用」が大流行りだ。メリットばかりのように思えるが、大きな落とし穴が2つある。企業の人事も知らない弊害が、すでに広がり始めている>

日本でも、「リファラル採用」が広がり始めた。採用難の時代、社員が候補者を紹介する。「類は友を呼ぶ」の例え通り、会社に合った人を紹介してくれる。しかも費用も抑えられる。何とも理想的な採用方法だ。

しかし、そこには大きな落とし穴が2つある。ひとつは、新たなハラスメントにつながる危険性があること。もうひとつは、逆に社員が辞めていくリスクがあることだ。その構造を解説しよう。

初対面なのに、「うちの会社の話、聞いてみませんか?」

勉強しようと自費でマーケティングのセミナーに参加したら、隣の席の人から、「うちの会社の話、聞きに来てみませんか」と声を掛けられた。今、こんな事例が増えている。

一方、キャリアコンサルティングの現場でも、「人事から、採用できる人を紹介しろと言われるのです。でも、私にはどうしても『うちの会社に来たら』とは言えないのです」という趣旨の相談が増えている。

これらはいずれも、日本企業に急速に広がり始めているリファラル採用が原因である。リファラル(referral)とは、紹介。まさに社員が友人や知人を紹介し、採用に結びつける手法のことだ。

6月28日に厚生労働省より発表された5月の有効求人倍率は、前月から0.01ポイント低下し、1.62倍だった。雇用の先行指標とされる新規求人倍率は、0.05ポイント低下したとはいえ2.43倍という高さ。新規求人倍率とは、その月の新規の求人数と申込件数から算出した倍率だ。

米中の貿易問題に端を発して、景気の行方が見通しにくくなる中でも、相変わらず高い数字である。5月だけだと、1人の求職者に対して2.43社からのラブコール。各企業が採用に苦しんでいるはずだ。

求人広告を扱う主要企業が加盟する「公益社団法人全国求人情報協会」が6月25日に求人広告掲載件数の集計結果を公表した。5月の総合計は148万5614件と、昨年の同月と比べると19.8%も増えている。いろいろなメディアに求人広告を出しても効果がどんどん下がっていると嘆いている採用担当者が多いのもうなずける。

求人広告を出しても人が採れない。そこで広がり出したのが、従業員に紹介してもらう採用手法なのだ。

成功事例が有名になり、「リファラル採用」に火が点いた

個人間売買のメルカリや、人材会社のビズリーチ、ITサービスのサイバーエージェントなどのリファラル採用が成功事例として広く知られるようになり、一気に広がっている。富士通などの大手企業でも、本格的に導入が進んでいる。

また、リフカム社やMyRefer社などのHRテック企業が、リファラル採用を支援するサービスを提供していることも広がりの一因だ。

リファラル採用そのものが悪いわけではない。採用においては有効な手段だ。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story