コラム

日本企業に蔓延し始めた「リファラル・ハラスメント」

2019年07月08日(月)16時45分

リクルートワークス研究所が公表している「米国の社員リファラル採用のしくみ」というレポートの中では、米国の採用コンサルティング会社CareerXroads社の調査結果が紹介されている。大手企業(従業員数1500~1万人規模)36社が参加した2012年の調査で、リファラル採用による入社は採用全体の28.0%を占めており、過去10年間この割合はほとんど変わっていないとのこと。アメリカでは、昔から社員の紹介が採用の有効な手段なのだ。それが、日本でも本格的に広がり始めたと言えるだろう。

広がっているリファラル採用の対象は、正社員採用だけではない。小売や外食、塾などのアルバイト採用においても広がっている。あらゆる雇用形態で人手不足が深刻だからだ。

リファラル採用のメリットとしては、下記が挙げられる。

(1)人材紹介料や求人広告費がいらないので、採用コストを削減できる。
(2)転職市場に出てこない潜在層や、希望に合う人材にピンポイントに接触できる。
(3)会社を理解して応募するので、入社後の活躍の可能性が高く、早期退職のリスクが低い。

リファラル採用では、コストを減らせるうえ、企業の社風や仕事内容、求ねる人材像、企業の魅力などをよく理解している従業員が候補者を紹介してくれるので、マッチングの精度がより高くなり、書類選考や面接を行う時間も短縮できる。しかも、入社後の定着率まで高くなる可能性があるのだ。

一見良いこと尽くめのようだ。

しかし、そこに落とし穴がある。

新たな問題、「リファラル・ハラスメント」の危険性

リファラル採用で成功すると、企業が従業員に感謝の気持ちとして採用成功の報奨金を渡すケースが多い。企業にしてみれば、人材紹介会社に払う紹介料や求人広告費よりもはるかに安く済み、紹介した従業員も臨時収入が入るので喜んでくれる。

この感謝の気持ちとして報奨金が払われている段階までは良いのだが、紹介人数をノルマ化している企業もあるようだ。紹介を強要しているわけだ。

それで、冒頭に紹介した、何かを学ぼうと参加したセミナーで、隣の人からいきなり勧誘を受けるようなことが起こってしまう。初対面の人を勧誘するには勇気も必要だろう。声を掛けた本人は、きっと必死だったに違いない。紹介を出さないと、会社に居づらい何かがあるのかもしれない。

ノルマまで課していない企業では、経営者や人事部門には、自分が強要しているという自覚はないかもしれない。しかし、想像してみてほしい。毎月のように紹介者が全社朝礼で表彰され報奨金を渡されるのだ。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story