コラム

かんぽ生命不正販売、3人謝罪会見が象徴する「責任の分散」という要因

2019年08月23日(金)16時15分

Kim Kyung-Hoon- REUTERS

<以前から不正の認識があったはずなのに、なぜもっと早く止められなかったのか。不正を働く企業には共通する心理的な要因がある>

今年になって発覚した日本郵政グループの「かんぽ生命保険の不正販売」の問題は、なぜもっと早く止められなかったのか。昨年世間を騒がせた「スルガ銀行の不正融資」の問題は、なぜもっと早く誰かがやめようと言い出さなかったのか。

これら不正を働く企業には共通する心理的な要因がある。それが「責任の分散」だ。一体どういう意味なのか。

「責任の分散」は企業の盛衰を分けるキーワード

不祥事を起こし、それを止められず、企業を衰退させるのも人。逆に、顧客満足を増幅させ、企業を繁栄させるのも人である。経営層から現場社員まで、そこで働く人の心理状態に注目する必要がある。

「責任の分散」を理解してもらうために、心理学の「傍観者効果」から説明しよう。

「傍観者効果」とは、社会心理学の用語で集団心理の1つだ。他者に対して援助すべき状況や、ある事件に対して解決すべき状況であるにもかかわらず、自分以外の傍観者がいる場合には、行動が抑制されてしまう心理を指す。これは、傍観者が多いほどその効果は高くなる。

「傍観者効果」が起こる原因は、主に3つある。

1つ目が「責任の分散」。自分が行動しなくても、誰かが行動してくれるであろうと考えることだ。例えば火事を見ても、誰かが119に電話してくれるだろう、自分が消火器を担いで火に飛び込まなくても、そのうち消防車が来て消してくれるだろうと考えてしまう。

見ている全員が「誰かが何とかしてくれるだろう」と思うと、みんなが傍観者となり、事態が最悪のところまで進んでしまう。心のどこかに、他者と同じ行動なのだから責任や非難が自分に集中することはなく、分散されるだろうと考えてしまうのだ。

残りの2つは、「多元的無知」と「評価懸念」である。

例えば、道で倒れている人を見かけた場合、自分は心配になったが、誰もその人を助けていないとしよう。

「多元的無知」とは、周囲の人が何もしていないのだから、援助や介入に緊急性を要しないだろうと誤って判断してしまうこと。

「評価懸念」とは、周囲からの評価が気になって、結局行動できないことだ。他の人から「寝ているだけなのに救急車まで呼んで、大げさな人だ」と思われないだろうか、「私は寝ているだけだ」と本人から文句を言われないだろうか、と行動への評価を考えてしまい、結局行動に移せないことを指す。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減と報道

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ

ワールド

米代表団、来週インド訪問 通商巡り協議=インド政府
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story