コラム

消費税ポイント還元の公式アプリが「使えない」理由

2019年10月16日(水)21時14分

第二に、アプリではポイント還元をやっていると表示されるが、ポスターなどを貼っておらず、店外からでは還元をやっているのかどうかがわからないお店。私の家の近所にはこういう店がかなり多い。もっぱら常連さんだけを相手にしているような店である。店側にしてみれば、付き合いでポイント還元に参加したものの、本音ではあまりメリットを感じていないのだろう。普段は現金で払ってくれている常連さんがカードで支払えば、お客自身は還元があってお得だが、店側からするとカード決済手数料を差し引かれてかえって損である。かといってこれを機にあらたなお客を獲得したいとも思わないので、ポイント還元があることを積極的にアピールするつもりもない。

第三に、アプリ上に表示されるものの、実際には無店舗営業であるため、地図に表示された場所に行っても何もない店。

以上の3タイプのお店の中で地図アプリ上に表示すべきなのは第1のタイプのみであり、第2、第3のタイプのお店は表示されるのはかえって迷惑であろう。しかし、現状の地図アプリではそんなお店側の事情などお構いなく表示してしまう。第1タイプも、もともと店先で還元があることをアピールしているのであるから、結局、この地図アプリが役立つ場面というのはほとんどない。

繰り返される失敗パターン

こんなことを書いたら、このアプリ作成にあたった人たちから涙目で抗議されそうだ。「結局、あなたは私たちが汗水流して毎晩徹夜で作ったこのアプリが無駄だとおっしゃるのですか!」

申し訳ないがその通りだ。ただ、文句を言うなら私にではなく、あなた方にこの仕事を命じた上司または発注元の経済産業省に向かっていってほしい。

このアプリは旧日本軍以来の日本の失敗パターンを見事なまでに踏襲している(戸部・寺本・鎌田・杉之尾・村井・野中『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』)。まず作戦の目的があいまいである。兵卒たちは奮闘しているが、データの整理・編集作業を行うべき上官が無能である。そのため、膨大な数の位置や情報の誤りが生じており、その修正と今後の参加店の増加などに対応するのにこれからも膨大な兵力の逐次投入が必要とされる。そうやって頑張って完璧な地図アプリを完成させたとしても、結局来年6月の還元事業の終了とともに、このアプリだけでなく、そのために蓄積された情報はすべて不必要になる。

これ以上無駄な犠牲を増やさないために、今のうちにスッキリと撤退して、アプリをやめるべきである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story