コラム

米中貿易戦争・開戦前夜

2018年06月22日(金)22時55分

報復課税はトランプ大統領に301条発動を思いとどまらせるための脅しであったが、脅しの効果がないことがわかれば、むざむざ中国国民を苦しめるような報復課税はやめたほうが得策である。

しかも報復を回避することは中国にいろいろなメリットをもたらす。まず、中国が報復しないとなれば、トランプ大統領が次に用意している2000億ドル分の対中輸入に対する課税を実施する道理が失われる。さらに、中国が「自由貿易体制を維持するために報復をせず、開放を続けることにした」と世界にアピールすれば、アメリカの非道さが際立つことになり、世界から同情と尊敬を集めることができよう。

一方、もし中国が報復課税をして本格的な米中貿易戦争になれば日本や韓国など第3国の経済もマイナスの影響を受ける。アメリカが制裁の原因としている知的財産権侵害の問題に対しては、日本とヨーロッパも中国に対して不満を持っているので、米中貿易戦争が始まれば、日欧はアメリカの側に立つ可能性が高い。

しかし、中国が報復をしないことによって、アメリカが保護主義的、中国は開放的だとなれば、自由貿易を標榜する日欧が保護主義の側に立つわけにはいかなくなる。このように考えると、中国にとっては、アメリカが課税したら報復するぞ、とギリギリまで脅しておいて、いざ課税が行われたら報復しないというのが上策のように思える。

ともあれ最後には米中双方で理性が勝ち、貿易戦争が回避されることを望んでやまない。


プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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