米中貿易戦争・開戦前夜
アメリカとカナダは互いにほぼ同額の鉄鋼を輸出しあう関係にあるし、アメリカはメキシコから輸入する鉄鋼の2倍もの鉄鋼をメキシコに輸出している。だから、課税によってカナダやメキシコからの鉄鋼輸入を減らし、国内の鉄鋼生産を増やすことができたとしても、カナダとメキシコが報復のために同様の課税を行えば、アメリカからの鉄鋼輸出が減少して生産も減少し、結局国内の鉄鋼生産は最初と変わらないということになる。
そのような簡単な道理もわからずにカナダとメキシコからの鉄鋼輸入に追加課税するぐらいだから、中国との貿易戦争がアメリカ国民の負担を増すことをいくら説いてもトランプ大統領は理解しないだろう。
つい最近まで、米中貿易戦争は回避されそうな流れになっていた。4月に習近平国家主席は銀行業、証券業、保険業、自動車産業における外資の出資比率に対する規制を緩和し、自動車の輸入関税の引き下げを実施するなど経済の開放を進める方針を表明し、アメリカの不満を和らげる姿勢を見せた。温厚な知米派の劉鶴副首相がアメリカとの交渉に赴き、中興通訊(ZTE)に対するアメリカの禁輸措置を罰金に「減刑」させるという成果も挙げた。中国側の働きかけにより、アメリカの法を犯したZTEの減刑まで勝ち取ったぐらいだから、通商法301条についても、中国の輸入拡大努力によって回避できると思われた。いったい米中は本当に貿易戦争に突入するのだろうか。
中国は報復自制を
ここで中国には応戦しないという選択肢もあることを思い出してほしい。つまり、アメリカが追加課税を発動しても、中国が報復課税をしないのである。
本音を言えば、中国は報復課税などしたくないはずである。
中国が第1陣の報復課税の対象とするのは大豆、乗用車、豚肉、魚、小麦、トウモロコシなどであるが、このうち最大の輸入品目は大豆で、2016年には138億ドルもの輸入があった。中国は大豆の自給をすっぱりあきらめたようで、2016年は大豆の国内供給約9600万トンのうち8400万トンが輸入であった。うち3800万トンがブラジル、3400万トンがアメリカ、800万トンがアルゼンチンからの輸入である。
もし中国がアメリカからの大豆に25%の関税をかけたとしても、ブラジルやアルゼンチンからの輸入によってアメリカ産大豆を代替できるとは思えない。畑や輸送能力を増やすには時間が必要だからである。結局、中国は高くてもアメリカの大豆を輸入せざるを得ないだろう。大豆は油を搾り、かすは家畜の飼料とするので、アメリカ産大豆が値上がりすれば、食用油と食肉の値上がりが起き、家計を直撃する。
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