シャープ買収で電子立国ニッポンは終わるのか
栄光はなぜ過去形になってしまったのか(秋葉原の電気街、2013年) Toru Hanai-REUTERS
鴻海によるシャープの買収が3月30日に決まりました。同じ日に東芝も冷蔵庫、洗濯機などの白物家電事業を中国の家電大手の美的集団に537億円で売却することを決めました。いずれも日本を代表する家電ブランドであり、私の自宅でも少なからずお世話になってきました。以前にこのコラム(「シャープを危機から救うのは誰か」)で書きましたように、日本の電機メーカーが築き上げてきた資産(知的財産や人材)を再び活性化するには合併のシナジーが期待できる相手に買収してもらうのが一番です。東芝と美的集団は中国でのエアコン用コンプレッサーの合弁事業を成功させるなど長年の協力関係がありますので、白物家電事業の嫁ぎ先としては一番信頼のおける相手だったのだろうと思います。
【参考記事】外資による「乗っ取り」は日本企業が立ち直るチャンス
ただ、「これでよかった、いままでの蓄積を生かす最良の方法はこれしかない」と思う反面、かつて日本の家電・エレクトロニクス産業は強いのが当たり前で、「電子立国」をも自任していたのが、いまや代表的な企業が軒並み構造的な経営不振に陥り、粉飾決算にも手を染めた挙げ句に、中国・台湾の企業に身売りするまでに落ちぶれたのには寂しさを感じると同時に、「なぜだ」という思いを禁じ得ません。
もっとも、「なぜだ」という問いに対して、すでに専門家たちが何冊もの本を出しており、本コラムの編集者からも今さら私の説など誰も読みたくないだろうと言われております。それでも敢えて一点に絞って私の考えを書きたいと思いますので、しばしお付き合いください。
この問いに対するジャーナリストたちの回答、例えば井上久男『メイド・イン・ジャパン 驕りの代償』(NHK出版、2013年)や最近出た日本経済新聞編『シャープ崩壊 名門企業を壊したのは誰か』(日本経済新聞出版社、2016年)は、煎じ詰めれば「経営者が悪い」というものです。後者はシャープの歴代社長間の抗争を描いていて面白かったのですが、ただ抗争は経営状況悪化の原因というよりも結果だと思いますので、そもそもなぜ経営が傾いたのかについて明確な答えは得られませんでした。
【参考記事】シャープ買収を目指す鴻海の異才・郭台銘は「炎上王」だった
「経営者が悪かった」と決めつける前に
トヨタ式生産方式の父である大野耐一は何かトラブルが起きたときに「なぜ」を5回繰り返しなさい、と説きましたが、ジャーナリストたちの回答が物足りないのは、「経営者が悪い」という回答が1回目の「なぜ」に対するものではなく、2回目、3回目の「なぜ」に対する回答だからです。
もし、経営不振の理由が経営者の横領や背任にあるならばともかく、「経営者が悪い」という中身が、何らかの経営上の決断をしたことやしなかったことにあるのだとすれば、経営不振の原因は、という1回目の「なぜ」に対する回答としては、どのような決断が良くなかったのか、どのような決断が欠けていたのかを言ってほしいところです。その指摘なしに、ただ経営者が悪いというのでは、結局経営者が良ければなんでも良きに取りはからってくれるだろう、という単なるスーパーマン待望論になってしまいます。
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