コラム

「人口減少」日本を救う戦略はこの2国に学べ!

2018年04月03日(火)12時04分

時計、金融などでブランド力を発揮するスイス(時計見本市バーゼルワールド) ARND WIEGMANN-REUTERS

<大きいことはいいことか? 人口減少に頭を抱える前にやれることがある。国土の小ささや人口の少なさ、乏しい資源や厳しい環境をイノベーションへと転化させた圧倒的に強い小国の秘密。本誌4月10日号「小国の知恵」特集より>

世界経済フォーラム(WEF)の世界競争力ランキングにおいて、09年以降9年連続で第1位を獲得しているのがスイスだ。面積は約4万1285平方キロで九州と同程度である一方、人口は854万人で、1302万人の九州の6割強。国土の約7割を「ヨーロッパの屋根」といわれるアルプス山脈とジュラ山脈が占めている、天然資源にも乏しい「小国」だ。

一方で、各種の競争力ランキングで高い評価を得るだけでなく、国民の豊かさを表す指標となる1人当たり名目GDPでも8万345ドルと第2位(以下、各国とも17年数値)。3万8882ドルである日本の2倍以上を誇る。

さらに小規模で、国土の面積は日本の四国と同程度、人口では大阪府に満たないイスラエルはどうか。近年、「スタートアップ大国」「技術大国」としても注目を集めている同国の1人当たり名目GDPは3万7192ドルと、日本にほぼ並んでいる。

面積でも人口でも地理的にも不利なはずのこの2つの小国が、なぜ圧倒的な強さを持つのか。両国の歴史や環境、政策を読み解くと、人口減少に直面する日本が目指すべきものが見えてくる。

筆者は欧州の金融機関に日本の経営幹部として勤務した経験を持つが、スイスは欧州でも特に尊敬を集める国だった。国際競争力に加え、世界トップレベルの豊かさや安定感・安全性を備えている。人口が少ない、国土が小さい、天然資源が乏しいといった恵まれない内的要因を強烈な危機感とチャレンジスピリットに転化させ、グローバル市場に成長の活路を見いだしてきた。

国家レベルの競争力だけではない。個々の産業を見ても、精密機械、ライフサイエンス、金融・保険などで産業クラスター(産学官が一定地域に集積し事業連携を行う状態)を形成。食品のネスレ、時計のスウォッチ・グループ、保険のチューリッヒなどグローバル企業も数多く創出し、国外からもグローバル企業・人材を引き寄せてきた。

全寮制の寄宿舎を基本とするボーディングスクールなど世界の人材がスイスに学びに来る仕組み、そして本社機能や研究機関機能に特化し、グローバル企業がスイスに拠点を構える仕組み、さらにはインフラや生活水準などの高いクオリティー・オブ・ライフで人々がスイスに住み続ける仕組み──これらを構築することで、スイスは優れた事業・教育・生活環境を整備し、グローバル企業・人材を引き寄せてきた。

一方のイスラエルは近年、世界屈指の技術大国とも呼ばれる。世界最高峰の軍事技術を民間に転用し、人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、自動運転、サイバーセキュリティーなど現代の「メガテック」で優位な地位を構築。さらには「小国」「陸の孤島」である不利な条件から、イノベーションを創造し、製造業よりはハイテク技術分野における開発段階という知識集約型産業に特化してきた。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story