コラム

世界で最も自動運転車の社会実装を進めている会社は、意外な中国企業

2019年05月08日(水)19時05分

百度(バイドゥ)の自動運転バス Jason Lee-REUTERS

<「中国のグーグル」とも呼ばれる同国の検索最大手企業がバイドゥだ。同社が起死回生を期して勝負をかけているのがAI事業であり、実は自動運転に関しては、グーグルのウェイモにも先行し、世界のトップランナーとして開発を進めている>

※本稿は、田中道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

BATHはバイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイという、中国の巨大テクノロジー(メガテック)企業を指す言葉。前回コラム(テンセントの「ミニプログラム」がアップルの「アップストア」と全く異なる理由)で取り上げた騰訊控股(テンセント)に続いて、ここで注目したいのが中国の検索最大手企業である百度(バイドゥ)です。同社は「中国のグーグル」とも呼ばれ、「バイドゥ検索」「バイドゥ地図」などのほか、動画ストリーミングサービス「アイチーイー」でもよく知られています。

中国の検索市場では、グーグルが2010年に撤退、バイドゥの一人勝ちの状態です。しかし、バイドゥは「グーグルの検索サービスをコピーしているだけ」としばしば言われ、その後の事業展開もグーグルに酷似しています。また、バイドゥの時価総額は、アリババ・テンセントの時価総額と比較しておおむね8分の1以下。株式市場の評価では、バイドゥは、BATHのうち上場企業2社の後塵を拝しています。そのような中、バイドゥが起死回生を期して勝負をかけているのがAI事業なのです。

中国政府から「AI×自動運転」事業を国策として受託

バイドゥは2017年に中国政府から「AI×自動運転」事業を国策として受託しました。バイドゥが注力するAI事業の中でも、自動運転は非常に重要な位置づけにあるといえます。

バイドゥの自動運転に関する取り組みがこれまでどのような経緯であったのか、今どの段階にあるのかを整理しておきましょう。

実はバイドゥは、2013年にはすでに自動車メーカーと協力し、自動運転に取り組んでいました。完全自動運転に必須となる高精度3次元地図のほか、ローカリゼーション(自車位置特定)・センシング・行動予測・運行プランニング・運行インテリジェントコントロールなど、自動運転に関わる技術の開発を進めていたのです。

2015年末には「無人運転事業部」を設置し、北京周辺で自動運転のプロトタイプ車のテスト走行を実施。2016年4月には、自動運転の研究開発やテストに注力するため、米国シリコンバレーに拠点を設立。続いて8月、自動運転のテスト車両として、中国自動車メーカー「ビッグ5」の一角である奇瑞汽車が製造する電気自動車(EV)を採用しました。さらに9月には米国カリフォルニア州で自動運転車のテスト走行を行う許可を取得し、11月には中国で18台の自動運転車を展示してデモ走行を行っています。2017年3月には、北京市海淀区の3カ所の道路で自動運転車8台のテスト走行実施許可を申請しています。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カーニー加首相、トランプ氏の自動車関税発言を批判 

ビジネス

第一三共、26年3月期の営業益5.4%増を予想 市

ビジネス

デンソー、今期営業益30%増と過去最高予想 関税影

ビジネス

第一三共、発行済み株式の4.29%・2000億円上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story