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アリババ「米中欧日に次ぐ経済圏を構築する」大戦略とは何か
浙江省杭州市のアリババグループ本社 Aly Song-REUTERS
<巨大EC企業アリババは本格的に世界展開できるか。フィンテック事業、物流事業、さらにはリスク要因からその壮大なビジョンを分析すると――>
「アリババはもはや単独の日本企業や企業グループをライバル視していないのか」
これは、筆者が大手商社の経営幹部向けに「アマゾンvs.アリババ」の戦略レクチャーを行った際に同メンバーの1人から聞かされた感想だ。
アリババの「米国、中国、欧州、日本に次ぐ世界第5位のアリババ経済圏を構築すること」というビジョン。そして2020年の流通総額の目標を約110兆円としており、2017年実績はすでに約60兆円という事実は、日本を代表する有力企業の経営幹部さえも圧倒されるものだ。
実際にアリババはこの壮大なビジョンに対して、着々と大戦略を実行している。
本稿では、筆者の新刊『アマゾンが描く2022年の世界――すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』(PHPビジネス新書)の第6章「アジアの王者『アリババの大戦略』と比較する」(同章全33ページ)から内容を抜粋し、「アリババの大戦略」を論じてみることにしたい。
人間の「格付け」まで実現したフィンテックの王者
日米欧の金融機関関係者は認めたがらないが、専門家筋によれば、フィンテック最先進国は中国であり、その最大のプレイヤーがアリババであるというのはすでに常識だ。企業のイメージとしても「ECサイトのアリババ」よりも「アリペイのアリババ」のほうがしっくりくる、という人も多いのではないだろうか。
アリペイは中国全土で4.5億人に利用されているスマホ決済サービスである。中国におけるオンライン決済の5割、モバイル決済の8割のマーケットシェアを占めており、日本国内においても中国人インバウンドを対象にしたアリペイ導入店舗が2万5000店舗を超えている。SNS最大手テンセントのWeChatPayとアリペイで競い合っている中国は、電子マネー先進国でもあるのだ。
これほどまでにアリペイが普及したのは、経営学でいう「リープフロッグ」のためだと考えられる。これは、新興国が先進国に遅れて新しい技術を手にしたとき、一足飛びに最新技術の導入が進む、という現象を指す。
中国の銀行は非常に利便性が低く、アリペイが登場する以前は、売り手と買い手双方に取引の保証を与える仕組みがなかった。それが、アリペイのような第三者決済が爆発的に普及する余地をもたらしたのだ。中国では経済的に苦しい地方からモバイルインターネットが拡大していったが、おそらく同様の理由だろう。
低価格帯のスマホがその動きを加速させた。中国では驚くほど安いスマホが台頭しており、今ではホームレスの人々までスマホを手にし、アリペイで支払いをしているほどである。そんな環境下で、2014年にオフライン決済と店舗決済が始まると、アリペイは一気に普及していったのだ。
そして、利便性も非常に優れている。支払いの際はアプリを立ち上げてQRコードをかざすだけで、何も難しい作業はいらない。支払い以外にも、アプリ上にはさまざまなサービス・コンテンツ・機能が集中している。
たとえば、中国人観光客が成田空港に到着してこのアプリを開くと、周囲にどんなお店があるか表示され、個々のお店の情報が詳しく表示されるとともに、お店で使えるクーポン券までもらえる。空港内にあるラーメン店がスマホのアリペイアプリに表示されると、その店舗の位置や地図、中国語・日本語の店名、同店で使える「餃子1皿無料のクーポン券」までが同時に表示される。
中国では公共料金もアリペイで支払い可能だ。中国人留学生に聞くと「コンビニも銀行も少ない中国では、アリペイのおかげでようやく支払いが簡単になったんです」とのことだった。
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