コラム

「200億円赤字」AbemaTVがメディアと広告の未来を変える?

2017年06月21日(水)11時13分

道・天・地・将・法の総合評価

AbemaTVは、(1)スマホとスマホ広告がさらに成長するという「天の時」に合致した事業であり、(2)「テレ朝×サイバーエージェント」という「TVクオリティー×ネット技術」に優れたスポンサー企業による「地の利」を生かした事業であり、(3)「天と地」の両面に合致した優れた合理性をもとに「スマホ時代のマスメディアをつくる」という大戦略を目論んだ事業であり、(4)同戦略を実行するに当たって必要な将を集め、危機感とやる気を鼓舞し、優れた番組作り行うことに一致団結させ、(5)同戦略を実行するに当たって必要な事業構造や仕組みを構築しようとしているものと評価できる。

藤田社長の「AbemaTVは200億円の赤字」という発言のほうが一般には注目されているが、実際には堅実な既存の収益基盤からAbemaTVへの先行投資を行っている。

サイバーエージェントは、2016年9月期通期決算で売上高3106億円、営業利益367億円と過去最高を記録。特に売り上げの伸びが大きいのは動画広告であり、今期に入ってからも、第1四半期52億円、第2四半期67億円と好調に推移している。動画広告の対象は主にYouTubeやFacebookなどであり、AbemaTVからの売上も将来的にはここに加わることになる。

なお、サイバーエージェント社内では、新規事業に対して明確な「損切りルール」が定められていることから、AbemaTVの事業についても「ここまでの赤字や損失なら会社全体の経営が傾くことはない」といった冷徹な判断もあっての事業展開と推測される。

経営者の「リスクテイキング能力×決断力」も凄いが、「冷徹に損切りルールを決めて会社全体が傾くまでのことはやらない」という冷静な判断をしており、大胆かつ冷静な事業投資がAbemaTVであると言えよう。

一方で、当初から女性の視聴者の比率にこだわっているものの、今年3月時点での女性比率は36%にとどまっている。また現時点においては、視聴者数値のベースとなるWAUはアニメ・スポーツ番組等のコアファン層で大きく占められているのではないかと推測されるなかで、いかにより一般の若年層の習慣視聴を獲得していけるかが最大の課題であろう。

もっとも、「スマホ時代のマスメディア」、特にスマホ時代における地上波TV型「リアルタイム×受動的視聴」マスメディアとしては、世界でも類を見ない挑戦である。

閉塞感の強い現在の日本において、成果を上げるには挑戦をすることが必要だと示し、そして「マスメディアをつくる」という大きな挑戦を成功させることをもって、この閉塞感を打ち破る役割を果たしていくことまでをもAbemaTVには期待したいものだ。

【参考記事】日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

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プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

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