コラム

同窓会で見つけた、精神が腐った人と若く活力に満ちた人の違い

2018年05月18日(金)17時30分

中国の定年は男性が55歳、女性が50歳と早かった(今はもう少し引き上げられたはずだ)。定年後は孫の世話をして、公園で太極拳をするぐらいしかやることがない。こんな生活を送っていれば、精神が腐るのも当然だ。

今回の歌舞団の同窓会でも、同じような失望を味わうのではないか――。そう心配していたのだが、蓋を開けてみると、以前の同窓会とは全く違う光景があった。みな、目が死んでいないのだ。年は取っても活力に満ちており、野心も失っていない。私と同じだ!

先ほど述べたとおり、歌舞団はたんなる趣味ではなく、セミプロのような存在だ。そこを足がかりにさらなる出世を目指すこともできる。踊りを楽しみたいというよりも、踊りの才能を生かして将来をつかもうとした人々なのだ。もちろんプロのダンサーになる道は厳しいが、成功を目指して努力ができる人は、ダンスの道で失敗しても別のチャレンジをする力がある。

時代の追い風もあった。私たちが歌舞団に所属していたのは文化大革命の末期だ。その後に訪れた改革開放は、機転が利く人間ならば大成功を収められる戦国乱世の時代。チャレンジ精神を持つ歌舞団の人間は、みな湖南省を飛び出し、深圳や海外に活躍の場を求めた。

日本に私、アメリカに2人、カナダに1人。北京で研究者になった者もいれば、湖南省のダンス界で出世した者もいた。他にも、国有企業のトップが1人、民間企業のトップが1人。彼らの多くが成功を収め、今も最前線で戦い続けている。

「転がる石には苔が生えぬ」というがまさにその通りだ。チャレンジを続けているかぎり、新たな分野に挑み続けているかぎり、精神は老いない。

私は湖南省から深圳を経て、日本へと移住した。仕事でも、バレエダンサーから文芸紙記者、アパレルメーカーの社員、案内人、レストランオーナー、ジャーナリスト、ラジオDJ、そして政治家と、次々と新たなチャレンジを続けている。常にチャレンジしているからこそ老いずに済んでいるのだろう。

故郷にとどまり続けた友人たち、そして故郷を離れてチャレンジした友人たち。2種類の同窓会に出席して、自分の生き方が間違っていなかったことを改めて確信した。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story