コラム

選挙に落ちたら、貿易会社の社長になれた話

2016年04月21日(木)11時45分

"元"中国人の出馬は大反響を呼んだ。取り上げられた記事がヤフーのトップニュースになり、批判と罵声のコメントが山のようについた。精神衛生のためには見ない方がいいとわかっていたが、どうしても見てしまう。街頭演説中に「中国人は信用しない」「国に帰れ!」と怒鳴られたこともあった。

【参考記事】文革に翻弄された私の少年時代

 でも、こうしたことも含めてすべてが良い経験となったし、楽しかった。自分を成長させてくれた、良い機会だったと思う。

中国人は民主主義に興味津々だった

 区議選では1018票の投票をいただいたが、当選には422票が足りなかった。だが私、李小牧は1回の失敗であきらめる男ではない。2019年の次回選挙までにこの差を埋めていきたい。

 ――と意気込んだのはいいものの、問題はお金だ。質素な選挙戦だったとはいえ、ポスターや名刺の印刷などで数百万円がかかった。今回は妻のお許しが出たとはいえ、次回はさすがに許してもらえないだろう。

 というわけで私は、日中をつなぐビジネスの道を選ぶこととなった。思いも寄らなかったが、出馬により知名度だけでなく信用度まで上がったことで、中国の企業家から「日本がらみのビジネスがしたいのですが」と声をかけられることが増えたのだ。

「"元"中国人、日本で選挙に挑む」のニュースは、中国でも大々的に報道されていた。世界を見れば華人政治家は珍しくないが、二世や三世ばかりで、私のように国籍を取得した一世で政治家を志す人は少ない。しかも、独裁国家に住む中国人は民主主義に興味津々だ。台湾総統選のニュースを貪るように見入っていたのと同じく、この李小牧の一挙手一投足にも注目が集まっていた。

 かくして「政治家」李小牧は中国の有名人になり、テレビ番組のゲストとして呼ばれる機会も増えた。今では中国に行くたびに空港の入国審査で係員に盗み撮りされる。

「中国でビジネスをすれば騙される」と不安に思う日本人は多い。だが実は中国人も日本でのビジネスに不安を感じている。「政治家」であり"元"中国人の私は、日中のビジネス界をつなぐ最良の選択肢というわけだ。そして落選から1年が過ぎた今、私は貿易企業、「保健」用品メーカー、そしてウェブメディアの3つの会社で社長という肩書きを持っている。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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