コラム

運転可否判断のこれからと、高齢ドライバーに必要な心得

2021年05月14日(金)19時00分

高齢ドライバーは、自身の心身機能を客観的に理解する必要がある(写真はイメージです) dszc-iStock

<いつまで自動車を運転できるか──高齢ドライバーや家族を悩ませるその見極めだが、日常の運転データから適性を診断できる仕組みの研究が進みつつある>

自動車の運転はいつまでしていいのか。高齢者講習を受けて免許の更新ができたにもかかわらず、家族や自分の運転が心配な人は少なくない。高齢の父母に運転をやめてほしいと切り出せない人、家族に免許返納をしてほしいと言われて納得がいかない人も多い。運転ができる能力があるのかどうか、納得できる診断方法はないのだろうか。

マサチューセッツ工科大学で宇宙工学や宇宙医学・生理学、トヨタ自動車の東富士研究所で先進運転支援システム(ADAS)の企画・研究・先行開発などの経歴があり、『高齢社会における人と自動車』(コロナ社)の編著者である名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所企画戦略室長の青木宏文氏に聞いた。

◇ ◇ ◇

──自動車と高齢者を長らく研究してきた経験から、これからの運転可否判断はどうあればいいと考えるか。

今の75歳以上が免許更新時に受ける認知機能検査や高齢者講習は、認知機能を測って認知症との関係性を調べているが、運転に必要な認知機能を検査していないように思う。軽度の認知症でも運転ができる場合もある。認知症を見つけるのではなく、正しく運転できる認知能力を有しているか調べることが必要だ。

そのためにはまず「正しい運転は何か」を定義する必要がある。必ずしも交通法規を守ることだけが正しい運転ではない。それを定義した上で必要な運転技術や心身機能を検討すべきだ。その際、今の時代の交通マナーや環境、そして車両性能を踏まえなければならない。

基本的な交通法規の多くは昭和30年代から40年代につくられた。当時は車両の性能も制限があり、交通マナーも交通環境も悪かった。このような未発達な時代につくられた交通法規が今でも更新されていない部分も多い。

現代は交通事情や車両の性能も格段によくなった。しかし、道路は一様ではない。国道であっても歩道が整備されていない区間も多く、そうした道路で大型トラックが走る脇を子供たちが歩いているところもある。歩車分離ができている道路であればスピードを出しても問題ないが、未整備のところはゾーンを区切る必要があるだろう。

このような現代における「正しい運転」とは何か。それを定義した上で、正しい運転ができているか普段の運転をとおしてチェックできる技術(※後述)によって測ることが最も重要だ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story