コラム

復活したロシアの軍事力──2015年に進んだロシア軍の近代化とその今後を占う

2015年12月28日(月)21時16分

2016年以降の見通し

 国防省拡大幹部会議によると、2016年のロシア軍の見通しは次のとおりである。

 人員充足率 93%
 装備近代化比率 51%
  陸軍 37%
  航空宇宙軍 73%
  海軍 55%
  戦略ロケット部隊 62%
  空挺部隊 50%
 装備稼働率 91%
 予備物資準備率 100%

 このように、2016年もロシア軍の近代化はさらに続いていく予定であるが、そのペースは従来の計画よりも下方修正されることとなりそうだ。ロシア経済を見舞っている深刻な危機がその背景にはある。

 2016年度の国防予算は当初の予定どおり、3兆2000億ルーブル程度(約6兆円)となる見込みであるが、同年からスタートする計画であった2025年までの新装備計画は開始時期が2018年まで繰り延べられた。

 従来、ロシア軍が依拠していた装備近代化計画では、2020年をめどにとりあえず現状で保有している軍事力の近代化を図り、全軍の70-100%を近代化(軍種により相違がある)することになっていた。これに対して2025年までの新計画は、従来計画を発展解消し、新型空母や戦略爆撃機の調達など、本格的にロシアを「軍事大国」として復活させることを狙ったものであった。

 現状では、新計画への移行はあくまで先送りされただけで放棄されたわけではないが、長期的な原油安が予想される中で2018年までにロシア経済が回復できるのか、そして現状でさえ過大な軍事負担(すでに国防費はGDPの4%、連邦予算の約2割を占めるに至っている)が経済回復の足を引っ張ることにはならないかが注目される。

 クドリン元財務相(同人が2011年に辞任した一因も膨大な軍事支出への反発であった)は12月、インターファックス通信に対して、ロシア経済はまだ底を打っておらず、原油価格の低下に鑑みれば2016年にはさらに悪化する可能性が高いと指摘した。原油価格の高騰を背景に復活を遂げてきたロシアの軍事力強化がこのペースで続くのか、頓挫することはないにせよ鈍化するのかが2016年の焦点となろう。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story