コラム

今度の参議院選挙で審判を受けるのはむしろ「野党」

2022年06月23日(木)11時06分

自民党十八番の「党内擬似政権交代」が始まった

もちろん低熱量と微風の永田町をよそに、国外ではかつてないような大嵐が吹き荒れている。暴力を剥き出しにしたロシアによるウクライナ侵略は日本国民の間に、台湾有事への「想像」だけでなく、語り継がれるシベリア抑留等の戦争の「記憶」も改めて喚起した。ところが永田町で「核共有論」や「敵基地攻撃能力」改め「反撃能力」、「防衛費対GDP比2%」といった防衛力強化の議論を主導し注目を集めたのはもう一人の「令和の元老」とも言うべき安倍晋三元首相だった。非核三原則との抵触、日米安保の範囲、財源の手当等で議論が分かれる高度な政策イシューであるが、それが政権与党と野党間で繰り広げられる「権力闘争としての論争」ではなく、「ハト派」宏池会と「タカ派」清和研等との間の「政策論争」という形で国民に受容されるとなると、野党の出番はなくなる。自民党十八番の「党内疑似政権交代」と同じ舞台設計だ。立憲民主党が参議院選挙向けに掲げた「生活安全保障」という造語が有権者に浸透しないのは、語感の支離滅裂さだけが原因ではあるまい。

つまり岸田政権はこの9カ月で「やはり」上手くやっているのだ。高数値を維持してきた内閣支持率は不思議でも何でもない。それに対して際立つのが野党側の不作為であり「地力」の無さだ。今度の参議院選挙で「評価」されるのはむしろ野党なのだ。

むろんガソリン価格の高騰をはじめとする「物価高」と「円安」の激流が日本社会を襲っている最中の国政選挙であり、政権支持率も下降傾向にある。政府の新型コロナ対策と景気対策に対する不満も蓄積している。「文書通信交通滞在費」(文通費)改め「調査研究広報滞在費」の改革議論も結局放擲されたままだ。失言や醜聞といったきっかけ一つで国民の不満が爆発し、与党の獲得議席が低調に終わる可能性がないとは言えない。しかしその前に、今夏の参議院選挙で立候補者が向き合うのはそもそも国民の政治に対する不信であり、選挙で評価されるのは野党自身でもある。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジル中銀理事ら、5月の利上げ幅「未定」発言相次

ビジネス

米国向けiPhone生産、来年にも中国からインドへ

ビジネス

フィッチ、日産自の格付けを「BB」に引き下げ アウ

ビジネス

世界経済巡るトランプ米大統領の懸念を「一部共有」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story