コラム

「厳しい決断」と言いつつ、自分たちには甘い財務相...これで英国は、投資と成長を取り戻せるのか?

2024年09月25日(水)19時15分
イギリスのレイチェル・リーブス財務相

リーブス財務相(9月23日) Phil Noble-Reuters

<労働党のリーブス財務相は保守党時代の財政ルールの変更を匂わせ、「英国を再び成長軌道に乗せる」と宣言したが......>

[リバプール発]英イングランド北西部リバプールで開かれている労働党大会で9月23日、レイチェル・リーブス財務相は「保守党の負の遺産に対処する。それは厳しい決断を意味するが、英国への私たちの野心を曇らせるつもりはない」と投資のため財政ルールの変更を匂わせた。

14年ぶりの政権奪取後初の秋予算が発表されるのは10月30日。リーブス氏は「英国を再び成長軌道に乗せ、国民保健サービス(NHS)を立て直し、英国全土のあらゆる地域で成長を促進する」と表明したものの、党大会の演説でも秋予算の詳細は明らかにしなかった。

「保守党は少数の人々、国内の一部地域、一部産業の貢献によって強い経済が築けるというトリクルダウン・トリクルアウト理論に固執した。その考えは投資を阻害し、国内の地域格差を広げ、成長と生活水準を窒息させた」と口先だけの前保守党政権のリバタリアン政策を批判した。

「国内総生産(GDP)の100%に相当する政府債務残高。議会にも隠された220億ポンド(約4兆2200億円)の財政の穴。その中には英国に不法入国した難民申請者をルワンダに送る難民政策の失敗を含む60億ポンド(約1兆1500億円)以上の超過支出も含まれる」(リーブス氏)

「すべての国民が私の決定に賛成するわけではない」

財政の信認を支える英国の予算責任局(OBR)によると、今後50年間で歳出はGDPの45~60%超に増加する一方で歳入は40%前後にとどまる。政府債務残高は2030年代後半から急速に増加し、ベースライン予測でGDPの274%に達する見通しだ。英国にも日本化の波が押し寄せる。

リーブス氏は所得税、付加価値税(VAT)、国民保険料を通して現役世代の増税を行わないとの公約を繰り返した。その代わり冬季燃料費給付金を事実上廃止。保守党支持の高齢者・富裕層の不労所得を標的にするキャピタル・ゲイン課税・年金増税などが取り沙汰される。

リーブス氏は「すべての国民が私の決定に賛成するわけではないが、政治的な都合や私的な利益のために決定を回避することはない」と鉄の女マーガレット・サッチャー(保守党)を彷彿させる不退転の決意を見せた。しかし冬季燃料費給付金を巡る怨念は労働党内にも渦巻く。

保守党政権には無駄遣いが多すぎた。リーブス氏は政府のコンサルタント費用を半減させる。閣僚の航空機利用を減らすため4000万ポンド(約76億8000万円)のVIPヘリコプター契約を破棄。コロナ危機でのマスクや感染防護具の浪費と不正を徹底的に調査すると宣言した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story