コラム

「厳しい決断」と言いつつ、自分たちには甘い財務相...これで英国は、投資と成長を取り戻せるのか?

2024年09月25日(水)19時15分

投資と成長を促進する財政ルールの変更

秋予算については「緊縮財政には戻らない。英国を再建する予算であり、経済および財政の安定という枠組みの範囲内で行われる。石油・ガス生産者へのエネルギー利益課税を拡大し、英国産エネルギーへの投資に充てる」とだけ説明した。

GDPに占める経済への投資の割合で英国はG7(主要7カ国)で最下位。「財政を安定させ、持続的な成長の基盤を固めるために必要な選択を行う。成長が課題であり、投資が解決策だ。私たちは保守党の失敗から学ぶ必要がある」とリーブス氏は積極的な政府の必要性を強調する。

「財務省は投資のコストを計算するだけでなく、その利益も認識すべき時が来た。私たちは新しい成長産業に投資する新たな国家ファンドを立ち上げる」と意気込むが、すべての小学校に無料の朝食クラブを導入しなければならないのが英国の現状だ。

リーブス氏は投資と成長を促進するため財政ルールを変更するとみられている。資本投資と日常的な支出を区別することで財政規律を破ることなく、インフラや再生可能エネルギー、住宅への政府支出を増やす考えだ。国家ファンドの設立で民間投資を促す狙いもある。

英国の年金基金が英国の株式に投資するのはわずか4.4%

14年ぶりの政権交代で労働党大会は異様な熱気だ。会場周辺のホテルは最大1泊460ポンド(約8万8000円)。筆者は遠く離れた格安宿泊所をオンラインで4泊予約したが、架空の詐欺と分かり急遽、別の宿泊所を取り直した。しかしベッドは乱れたまま、タオルはびしょ濡れだ。

海外メディアは首相や閣僚が演説するメーンホールへのアクセスが制限されているのか、広報担当者から「モニターで視たらいい」と突き放される始末。07年以来、何度も労働党と保守党の党大会を取材しているが、メーンホールに入れなかったのは今回が初めて。

これで海外投資が呼び込めると考えているとしたら、オメデタ過ぎる。実際、英国の年金基金が英国の株式に投資する割合は1998年には44%だったが、現在はわずか4.4%に過ぎない。欧州連合(EU)離脱を招き寄せた英国の傲慢さは労働党政権になっても変わらないようだ。

首相官邸からの不協和音も鳴り響く。キア・スターマー首相、アンジェラ・レイナー副首相とリーブス氏は献金者からの高級衣服など贈り物疑惑の渦中にある。スターマー首相らは誠実さと透明性を声高に訴えてきた。

年金生活者を含む多くの人々が直面する日本の2倍近い物価高などの苦境を踏まえれば、冬季燃料費給付金の打ち切りを含めたリーブス氏の「厳しい決断」は偽善と非難されても仕方あるまい。

24日に行われたスターマー首相の演説には新味も、ビジョンもなかった。世論調査でスターマー首相に対する労働党支持者の間のネット(差し引きした)支持率は政権発足から3カ月も経たないうちに28ポイントも急落した。さもありなんと言うべきか。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story