コラム

英国で平均寿命が伸びない理由...「集団自決」などなくても長生きできない厳しい現実とは?

2023年04月21日(金)18時01分
イギリスの高齢者イメージ

Alonafoto/SHUTTERSTOCK

<ロンドンの高級住宅街ケンジントンからニュークロスゲートまで、わずか10キロ離れただけで男性の平均寿命は92歳から74歳へと18年も短くなる>

[ロンドン発]昨年4月~今年3月までの1年間で、英国の食品とノンアルコール飲料の価格が45年超ぶりに最速のスピードで上昇していることが19日、英国家統計局(ONS)の発表で分かった。食品とノンアルコール飲料の年間インフレ率は19.2%で、前月の18.2%からさらに上昇した。これより高かったのは直近では1977年8月の21.9%という。

食品インフレ率の上昇に最も貢献したのはパンとシリアルで、平均19.4%も上昇。最新の世論・社会動向調査によると、成人の半数以上(51%)が食品の買い物をする時、購入量を減らしている。成人の約4人に1人(26%)が過去2週間に食料必需品の不足を経験、ちょうど1年前の16%を大きく上回った。

食費節約のために53%の成人が「より安い食品を買う」、26%が「缶詰や賞味期限の長い食品を多く買う」、21%が「賞味期限の過ぎた食品を食べる」と回答。16%が食事の量を減らしたり、食事を抜いたりしており、中等度から重度の抑うつ症状を持つ人で42%、リタイア前の非就業・非求職者で35%、イングランドで最貧困地域に住む人で31%に達していた。

英紙ガーディアンによると、英国の定番食品チェダーチーズ、白パン、ポークソーセージの価格はこの1年で80%も高騰。著しく値上がりしたのは(1)砂糖 42.1%(2)ソース、調味料、塩、スパイス、料理用ハーブ33.7%(3)牛乳、チーズ、卵 29.7%。エネルギーや肥料の高騰とインフレによるコスト増、悪天候による不作が原因だ。トマトも不足している。

がん患者の最高待ち時間は671日

60歳を超え、年金生活に備える英国暮らしの筆者はスーパーで買い物をするたび、レシートを見て「本当に高くなった」とため息をつく。早く買い物に行かないと卵も品切れで、翌日買い足しに行く羽目になる。欧州単一通貨ユーロ圏では年間インフレ率は8.5%に下がっている。今更ながらモノの流れを停滞させた英国の欧州連合(EU)離脱が恨めしい。

円安にインフレのダブルパンチは円建ての収入が多い筆者には応える。それだけではない。英国の公共医療サービス(NHS)は原則無償がセールスポイントなのだが、かかりつけ医(GP)の緊急紹介から2カ月以内に治療を受けられるはずのがん患者の最高待ち時間は671日(英大衆紙デーリー・ミラー)。住む地域によって医療サービスには大きな格差がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story