コラム

英国で平均寿命が伸びない理由...「集団自決」などなくても長生きできない厳しい現実とは?

2023年04月21日(金)18時01分

筆者の友人、知人には心疾患で手術を受けた50代、60代、70代の男性が多い。民間健康保険によるプライベート医療を受けた男性はカテーテル治療の費用が3万5000ポンド(584万円)と算定され、毎月の保険料が600ポンド(10万円)に値上げされたとぼやく。別の男性はNHSの順番待ちに音を上げて自費で治療を受け、2万ポンド(334万円)を支払った。

米イェール大学・成田悠輔助教は、日本の65歳以上が全人口の3割に達したことに関連して、ネットTVで「僕はもう唯一の解決策ははっきりしていると思っていて結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなのしかないんじゃないかなと。人間って引き際が重要」と持論を展開したことが米紙ニューヨーク・タイムズなど海外メディアで問題視された。

英国の平均寿命はこの10年で横ばい

しかし、おカネのない人は長生きできないのが英国の現実だ。大学医学部(循環器系)で「生産性が低くなった老人を長生きさせる治療法を研究する必要はない」という暴論が交わされたと耳にしたことがある。コロナによる死者は22万3700人超。うち86%が65歳以上だ。英国の脱マスクなどコロナ正常化が早かったのは高齢者の犠牲の上に成り立っている。

「英国は10年もの間、平均余命より早い死に苦しんできた。なぜか? 早死25万人の謎」という衝撃的な記事が英誌エコノミスト(3月9日)に掲載された。英国の平均寿命は2世紀近くにわたって伸び続けてきた。しかし2010年代前半、他の先進国フランスやデンマークに比べ、高齢者だけでなくすべての年齢層で伸び悩み始めた。

現在、英国の平均寿命(出生時の平均余命)は81歳で、11年に比べ8週間長くなっただけだ。1980~2011年に平均寿命が伸びたペースが維持されていれば、英国の平均寿命は83.2歳に伸びていたはずだと同誌は推定する。12~22年に70万人の英国人が想定されていたより早く死んだ。コロナや景気後退の影響を除いた原因不明の早死は25万人にのぼる。

この変化は貧困層で大きい。「ロンドンの高級住宅街ケンジントンからニュークロスゲートまで、わずか10キロメートル離れただけで、男性の平均寿命は92歳から74歳へと実に18年も短くなる」と同誌は指摘する。問題は高齢者だけではない。若年層と中年層の死亡率も上昇しており、30~49歳の死亡率は12年ごろから着実に上がっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ワールド

米民主党議員、環境保護局に排出ガス規制撤廃の中止要

ビジネス

アングル:FRB「完全なギアチェンジ」と市場は見な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story