コラム

英国で平均寿命が伸びない理由...「集団自決」などなくても長生きできない厳しい現実とは?

2023年04月21日(金)18時01分

最富裕層で伸びる平均余命

英国の平均余命は最貧困層で短くなったのに対して、最富裕層では伸びた。貧しい少女と豊かな少女の平均余命の差は11年には6.8歳だったのに17年には7.7歳まで開いた。少年の場合はその差は9.1歳から9.5歳に拡大した。「すべての人の医療とケアを改善する」ことを使命にする英シンクタンク「国王基金」のヴィーナ・ローリー上級研究員はこう解説する。

「1841年に生まれた男性の平均寿命は40.2歳、女性は42.3歳。これは主に乳児期と小児期の死亡率が高かったためだ。栄養、住居、感染症対策など公衆衛生の改善で死亡率は低下し、1920年に平均寿命は男性56歳、女性59歳まで延びた。20世紀には小児予防接種、国民皆保険、心臓病やがんなど成人病治療の進歩、喫煙の減少で平均寿命は飛躍的に向上した」

2019年、イングランドの平均寿命は男性79.9歳、女性83.6歳だったが、コロナ危機の20年には男性で1.3歳減の78.6歳、女性で1歳減の82.6歳と10年前の水準になった。男性の健康寿命は63.1歳、女性は63.9歳。最も恵まれない10%の地域の男性は最も恵まれない10%の地域よりほぼ10年長く生きられると予想され、女性の場合はその差は8年だった。

平均寿命の格差の約3分の1は恵まれない地域で心臓病や呼吸器疾患、肺がんによる死亡率が高いことに起因している。主な危険因子の喫煙と肥満は恵まれないグループほど高くなっていた。一方、平均寿命が急激に短くなった米国では薬物、アルコール、自殺による「絶望の死」が最も大きな被害をもたらしている。

世界金融危機とその後の緊縮財政で貧富、健康、教育すべての格差が拡大した。貧しい家庭は生鮮食品を買って栄養のバランスの取れた食事を用意したり、運動したりする余裕もない。糖分や炭水化物が多く含まれた低価格の食品やスナックは肥満の最大の原因だ。筆者は健康寿命を1日でも長く延ばすため軽いジョギングと散歩、筋トレに精を出し始めた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランド、最後のロシア総領事館閉鎖へ 鉄道爆破関

ビジネス

金融規制緩和、FRBバランスシート縮小につながる可

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ訪問 エルドアン大統領と会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story