コラム

孫正義氏が米ナスダック再上場を計画する半導体大手アームは「イギリスの国宝」、戦略企業の流出危機に青ざめる英政界

2022年02月10日(木)11時19分

イギリス最大の強みはワクチン開発や変異株の探知、感染予測モデリングでも証明された科学力だ。英高等教育専門誌THEによる世界大学ランキングには1位オックスフォード大学、5位タイのケンブリッジ大学、12位インペリアル・カレッジ・ロンドン、18位タイのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)をはじめ28校がトップ200校に名を連ねる。

世界トップクラスの大学に支えられた研究開発力は、ユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場スタートアップ)だけでなく、評価額100億ドル以上の「デカコーン(ユニコーンの10倍を意味する造語)」を産み落としている。その中には日本にも上陸を果たしたデジタル銀行「レボリュート」も含まれている。

昨年4月時点でユニコーンの数はアメリカ288社、中国133社、インド32社に次ぐ世界4位の27社。欧州勢ではドイツ15社、フランス8社を引き離す。しかしイギリスではアームだけでなく、AIを開発する非公開企業ディープマインドもグーグルに買収されている。テクノロジー企業を大きく育てるには米シリコンバレーのようなハイテクの集積地と巨大な資本市場が不可欠だ。

IPOが活況を呈してもロンドン市場が敬遠される最大の理由はブレグジットに代表される予測不可能な政治にある。ずさんなコロナ対策で欧州最大の18万人超の犠牲を出しながら首相官邸や官庁街では平然と飲み会が続けられ、ジョンソン首相が下院で謝罪した舌の根も乾かぬうちに野党党首を誹謗中傷して恥じないような国にいったい誰が投資するというのだろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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