コラム

新型コロナ「不都合な真実」をあなたは受け入れられるか

2020年03月17日(火)13時10分

新型 コロナウイルスへの対抗策について説明するジョンソン英首相(3月16日) Richard Pohle/REUTERS

[ロンドン発]新型コロナウイルスの大流行が中国から欧州に移ったことを受け、ボリス・ジョンソン英首相は毎日記者会見を開くことになり、3月16日、いつものようにイングランド主席医務官と政府首席科学顧問と並んで会見した。

ジョンソン首相は「感染拡大のスピードが上昇し始めた。5日ごとに倍になっている」として(1)1人でも高熱か長く続く咳の症状があれば2週間、家族全員が自宅に留まる(2)市民全員に自宅勤務と、パブ・クラブ・レストラン・映画館・劇場を避けることを呼びかけた。

妊婦・70歳以上・基礎疾患のある人に特に注意を促した。今後数日中にリスクグループは12週間自宅に留まることを求められる。不要不急な高齢者入所施設への訪問は避けることも求めているが、休校措置はまだ含まれていない。

英保健・社会福祉省によると16日時点でPCR検査の陽性者は1543人で、うち55人が死亡。英国のトレンドは、集中治療室(ICU)と人工呼吸器不足で死者が2158人に達したイタリアの3週遅れ。いつも目一杯の英国民医療サービス(NHS)が持ちこたえられるか心配になる。

「集団免疫」の真実

前回ジョンソン首相は「多くの家族が愛する人を失うことになる」と率直に語りかけた。封じ込めが破綻した今、抗体のできた人が盾となって流行を終息させる「集団免疫」獲得の方針を明らかにしたため、英免疫学会などから「シミュレーションモデルを示せ」と厳しく批判された。

そのため今回は一転「生命を救い、人々を守る」決意を表明した。

集団免疫宣言には筆者も驚いたが、戦いが始まる前にベースラインを示しておくことは不可欠だ。最初に楽観的な見通しを示すより、国民に正直に「不都合な真実」を知らせておかなければならない。これは未知のウイルスと人類の英知と人道主義をかけた"戦争"になるからだ。

英政府の行動計画は英インペリアル・カレッジ・ロンドンMRCセンターの感染症数理モデルに基づく。同センターは1人の感染者から生じうる二次感染者数を示す基本再生産数を2.6と推定する。集団免疫獲得のために必要な免疫保有者の割合を集団免疫閾(しきい)値と言う。

(1- 1/基本再生産数)×100の簡単な式で計算できるので2.6を入れて計算すると閾値は61.5%という答えが出てくる。同センターは致死率を1%弱としているので。どれだけ犠牲者が出るか誰でも試算できる。

6644万人(英国の人口)×61.5%(閾値)×1%弱(致死率)=約40万人が集団免疫を獲得するまでに亡くなる。これが新型コロナウイルスを巡る「不都合な真実」だ。医師や統計学者なら誰でも知っている事実で、一般市民に隠す方がおかしい。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story