コラム

韓国で「週4日勤務制」は導入可能か

2021年09月22日(水)13時37分

韓国政府が「週52時間勤務制」を実施した理由は、長時間労働を解消し、労働者のワーク・ライフ・バランスの改善(夕方のある暮らし)を推進すると共に、新しい雇用創出を実現するためである。「週52時間勤務制」を実施する前の2017年の韓国の年間平均労働時間は2,018時間で、データが利用できるOECD加盟国の中で韓国より労働時間が長いのはメキシコ(2,149時間)のみであった。

図表2 日韓における1年間の労働時間

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出所:OECD Data Hours Worked: Average annual hours actually worked 2021年9月21日ダウンロード資料

では、「週52時間勤務制」以降の労働時間はどうなっただろうか。2017年に2,018時間であった韓国の平均年間労働時間は、2020年には1,908時間に大きく減少した。もちろん、韓国における労働時間の減少がすべて「週52時間勤務制」の効果とは言えないが、「週52時間勤務制」の実施が労働時間の減少に大きな影響を与えたことは間違いない事実である。

しかしながら、「週52時間勤務制」の施行による問題も現れた。賃金等処遇水準が高い大企業の場合は、既存の従業員が働けなくなった残業時間分を埋める労働力を相対的に容易に確保できたものの、処遇水準が低い中小企業の場合は労働力確保に苦しんでいる。労働力が確保できない場合はICT 投資の増加等を通じて労働生産性の引き上げを図る方法もあるものの、中小企業は資金調達が難しく、ICT 投資を増やすことも簡単ではない。また、労働力を確保した場合でも新たに社会保険料等の費用が増加することで、企業経営が厳しくなる問題も発生し得る。

一方、「週52時間勤務制」の施行以降、従業員の残業時間を一部しかカウントせず、実際働いた分より少ない賃金しか支払わないケースも発生した。制度施行以前には、時間外勤務に対しては働いた分の残業代が支払われていたが、制度施行以降は働いた分より少ない残業代しか支払われず、賃金が減少するケースが現れた。また、隠れ残業が増える問題も発生した。

従って、今後、「週4日勤務制」を普及するためには「週52時間勤務制」を先に定着させる必要がある。これから大統領候補らの選挙運動が本格的に始まると、週4日勤務制をめぐる議論はさらに白熱すると考えられる。大統領選挙への出馬を宣言した野党「正義党」の沈 相奵(シム・サンジョン)議員は、すでに「国民は、週4日勤務を享受する権利があると主張しながら、「週4日勤務制」の実現を選挙公約として挙げている。他の候補も労働者階級の支持を得るためにこれに相当する政策を公約として挙げる可能性が高い。長時間労働の是正やワーク・ライフ・バランスの実現のために,候補ごとにどのような労働政策を提示するのか注目されるところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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