コラム

韓国で不動産価格が高騰し続ける理由

2021年03月29日(月)08時57分

しかしながら、文政権は不動産価格が高騰する理由を不動産投機の仕業と判断し、供給を減らす政策を実施する。その結果2015年に765,328戸であったマンションを含めた全国の住宅建設の認可数は2020年には457,514戸まで減少した。特に、ソウル市の認可数は2017年の113,131戸から2020年の58,181戸へと、ほぼ半分近くまで減少した。

不動産価格が上昇した次の原因としては、規制強化を中心とした不動産政策が失敗したことが挙げられる。文政権は不動産価格を安定させるために、就任した2017年5月
〜今年2月までに計25回の不動産対策を実施した。しかしまだ大きな成果はなく、2020年以降は伝貰※やマンションの価格が上昇し、支持率下落につながった。

※伝貰:借主が契約をする際に住宅価格の5~8割程度のお金を貸主に預ける韓国独特の住宅賃貸制度

文政権は就任1年目に、多住宅保有者に対する譲渡所得税の重課税が適用される調整対象地域を追加指定した「6・19対策」、ソウル全体を投機過熱地区として、11区を投機地域に指定した「8・2対策」、多住宅保有者が賃貸事業者に登録して住宅を賃貸した場合、財産税や所得税などの税金や健康保険料を減免する「賃貸住宅登録活性化政策」等の多様な政策を実施した。その中でも12月13日に施行された「賃貸住宅登録活性化政策」が注目を浴びた。同制度の施行以降、2018年1月から7月までの新規賃貸事業登録者数は80,539人に達する等伝貰物件が増え、伝貰指数は文在寅大統領の就任直後であった2017年6月の106.0から2018年6月には88.5まで低下した※。

※伝貰受給指数の範囲は1~200で、数値が高いほど供給不足を、低いほど需要不足を意味する。

しかしながら、与党「共に民主党」の支持層を中心に、賃貸事業者に対する税制優遇措置に反対する声が高まった。結局、韓国政府は2018年9月13日に政策の内容を修正し、税制優遇措置を縮小する決断を下した。肝煎り政策を自ら蹴とばすことにより、不動産政策に対する文政権の信頼性は大きく失われることになった。

不動産関連税率を引き上げた政策も失敗したと評価されている。2020年8月4日に開かれた国会では所得税法、法人税法、総合不動産税法の改正案が成立した。所得税法改正案では、2年未満の短期所有の住宅と住宅の複数所有者の調整対象地域内の住宅に対する譲渡税重課税率を引き上げ、法人税法改正案では、法人が所有する住宅の譲渡税の基本税率に上乗せする法人税の追加税率を、現行の10%から20%に引き上げた。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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