コラム

コロナ不況を乗り切るカギ? 韓国で「ベーシックインカム」導入論が盛んに

2020年08月06日(木)15時30分

新型コロナで大きな格差が明らかになったのをきっかけに、韓国は最低所得の保障を考え始めた KrizzDaPaul-iStock.

<コロナ後の現金一律給付で地域経済が活性化した経験などから、本格的なベーシックインカムや「負の所得税」などの提案が相次いでいる>

新型コロナウイルスの勢いがいまだ弱まる気配を見せない中、韓国ではベーシックインカムの導入に対する議論が進んでいる。ベーシックインカムとは、政府が財産や所得、そして勤労の有無等と関係なく、無条件ですべての国民に生活に最低限必要な現金を支給する政策である。

ベーシックインカムは、フィンランド、カナダ、オランダ等で一部の人や地域を対象に実験的に実施されたことはあるものの、まだ本格的に導入した国はない。

2016年にはスイスでベーシックインカムの導入案をめぐって国民投票が行われた。導入推進派はすべての大人に月2500スイスフラン(日本円で約27万円)、未成年者に月625スイスフラン(同約6万8千円)を支給する案を提案した。これに対して、連邦政府を含む反対派は膨大な費用が掛かることや、働く意欲を失う労働者が増えること、そして海外の低所得者を中心にスイスへの移民が増える恐れがあることを理由にベーシックインカムの導入に対して反対を表明した。投票の結果、有権者の約8割が反対し、ベーシックインカムの導入案は否決された。財源を含めた具体的な内容が決まっていないこと、既存の豊かな福祉制度を失うことに対する不安や海外からの移民増加に対する懸念が高まったこと等がスイスの国民がベーシックインカムに反対した主な理由である。

現金一律給付の支給率97.5%

スイスを含めた海外の事例を見る限りでは、まだ課題が多いように見えるベーシックインカムになぜ韓国の政治家や地方自治体等は関心を持つようになったのだろうか。韓国においてベーシックインカムに対する議論が広がり始めたのは新型コロナウイルスの感染拡大以降、韓国政府や地方自治体がそれぞれ緊急災難支援金を支給してからである。            

韓国政府は3月19日から4月22日まで文在寅大統領主催の「非常経済会議」を開催し、3月30日に行われた3回目の会議で所得下位70%に当たる約1400万世帯に1世帯当たり最大100万ウォン(約8万9000円)の緊急災難支援金を支給することを決めた。その後、4月末に緊急災難支援金の支給対象はすべての国民に拡大され、5月11日から5月28日までの間に全国の2116万世帯に支給された(支給率は97.5%、支給額は13兆3354億ウォン(約1.19兆円)、一部の世帯は国へ寄付)。

また、地方自治団体も政府とは別に緊急災難支援金を支給した。例えば、京畿道が道内に住民票をおいている全ての住民に一人当たり10万ウォンを支給したことが挙げられる。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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