コラム

なぜ、韓国政府はGSOMIAを破棄したのだろうか?

2019年08月27日(火)17時50分

文在寅大統領は8月9日に、曹教授を次期法務部長官(法相)に指名した。しかしながら、公選によらない任命職の公職者を大統領が任命する際に、国会においてその候補者に対する検証を行う「人事聴聞会」2が開かれる前のタイミングで曹教授と関連したスキャンダルが続出している。

最初のスキャンダルは、曹教授の娘と関連した疑惑である。曹教授の娘は高校在学時代に檀国大学医科学研究所のインターンシップに参加したが、小児病理学をテーマにした論文に第1著者として名前が掲載された。その後、曹教授の娘は第1著者として論文を書いたことなどが評価され、高麗大学の「随時募集」(日本の推薦入試に相当)に合格した。

野党などは2週間のインターンシップに参加した高校生が専門的な論文を書くことは不可能で、第1著者として名前を載せたのは曹教授の娘を大学に不正入学させるための不正な方法であったと主張した。研究責任者である檀国大学の教授の息子と曹教授の娘は高校同期であり、母親同士も知合いであったそうだ。曹教授の娘の不正入学を巡って高麗大学では、8月23日の夜に大学当局に真相究明を求める学生集会が開かれ、集会には約500人が参加した。また、曹教授の娘が大学院で2回も留年したにも関わらず、6学期連続で奨学金を受領したことに対しても問題が提起されている。

そして、次のスキャンダルは息子の兵役延期疑惑だ。曹教授の息子は韓国とアメリカの二重国籍を持っており、2015年の身体等級の判定を受けてから現在に至るまで5度にわたって兵役を延期している。これに対して曹教授は学業問題で入隊する時期が少し遅くなっただけで、来年には入隊する予定であると釈明した。

娘と息子に関する疑惑以外にも、私募ファンド(プライベートファンド)3への投資疑惑や家族間の偽装訴訟など、曹教授と関連した疑惑は巨大で複雑な状態である。

学歴や兵役の義務を重視する韓国では、不正入学や兵役忌避に対する世論の批判は厳しい。従って、文在寅政府は日本とのGSOMIA破棄を発表し、曹国司法相候補者に対する世論が悪化する政局を転換させようとしたのではないかという指摘が野党やマスコミから出ている。

――――――――
2 韓国では、米国上院の制度を参考に、2000年からこの人事聴聞会を開始している。
3 投資家から資金を募って運用するファンドのなかで、資金を募る対象者が狭く限定されているもの。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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