コラム

インフレと金利上昇で揺れる不動産市場...「持ち家」「賃貸」論争に変化の兆し?

2024年08月30日(金)14時00分

newsweekjp_20240829021518.png

マンションの価格と平均給与額の推移 ILLUSTRATION BY UGUISU/ISTOCK (BACKGROUND)

1億超えの高級物件にシフト

その結果、円の市場価値は急低下し、為替市場では円安が進展。2年間でドル円相場は1ドル=110円台から一時は160円台と一気に3分の2まで下落した。円安が進むと輸入価格が高騰するため物価上昇に拍車がかかる。22年から23年の間にマンション価格が急騰したのはこれが原因である。

ここまでコストが上昇すると、デベロッパーは中間層向けの物件を販売していては十分な利益を得られなくなってしまう。このため各社は、インフレ下でも相応の購買力を持つ富裕層に焦点を定め、1億円超えの高級物件にシフトするという販売戦略の転換を行った。


マンションを開発して販売する場合、高級物件であれば、より大きな利幅を設定できるため、1棟から得られる利益の絶対額が大きくなる。このため物価上昇ペース以上にマンション価格が高騰し、庶民が望むボリュームゾーンの価格帯には物件が存在しなくなるという現象が発生した。インフレを経験したことがない人からすると不思議に思えるかもしれないが、経済学的に見た場合、物価上昇が継続的に進む経済環境において、価格の二極化が進むのは、当然に予想された事態といえる。

一部の論者は、外国人投資家が日本の不動産を買いあさっており、これが価格高騰を招いていると主張しているが、こうした見方はかなり偏っており、価格上昇の本質を指摘しているとは言えない。確かに円安が進んだことで、日本の不動産は相対的な割安状態となっており、一部の外国人投資家が都心の高級物件に投資しているのは事実である。

しかしながら、逆の立場になって考えれば分かることだが、為替が下落した国に投資を行う場合、その後、為替が反転して通貨高(この場合、円高)にならない限り、投資家の自国通貨ベースでの損益はマイナスになってしまう。外国から見た場合、日本への投資を行っても、今後、継続的に損失が発生する可能性も否定できないという状況であり、日本が本格的に景気回復のフェーズに入らない限り、大挙して海外マネーが日本の不動産に押し寄せる状況にはなりにくい。

実際、1億円以下の一般的なマンションを新たに購入している人の大半は自己居住目的である。今後さらに物件価格が上がれば、ますます持ち家の確保が難しくなる。もう買うチャンスがなくなると考えた一部の消費者は、夫婦共働きで長期のペアローンを組み、親から頭金などの援助を受け、かなり無理をして物件を購入している。比較的所得が高めの世帯が、ギリギリでローンを組んで買うというのが、新規購入者のリアルな姿と考えてよい。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story