コラム

インフレと金利上昇で揺れる不動産市場...「持ち家」「賃貸」論争に変化の兆し?

2024年08月30日(金)14時00分

newsweekjp_20240829021758.png

米国の不動産価格と可処分所得の推移 ILLUSTRATION BY DROGATNEV/ISTOCK (BACKGROUND)

日銀は7月の金融政策決定会合において追加利上げを決定し、継続的な金利引き上げ姿勢を鮮明にした。これによって円安に一定の歯止めがかかる可能性が高まっており、そうなれば物件価格の高騰も多少は落ち着くかもしれない。だが、日銀が正常化に向けて本格的に舵を切ったということは、今後、金利が大幅に上昇することを意味しており、住宅ローンの利用者にとっては厳しい状況となる。

ローン返済にはどんな影響が

日本の場合、住宅ローン利用者の大半が変動金利となっており、金利が上昇すると支払額もそれに合わせて増えることになる。余裕のある世帯では大きな問題にならないだろうが、収入ギリギリでローンを組んでいる場合、ローンを返済できなくなるケースが出てくる可能性が否定できない。


変動金利の住宅ローンの場合、実際に金利が上がってから返済額が増えるまで5年間の猶予があり、1回の支払額増加は25%以内にするという救済措置が盛り込まれているので、すぐに金額が増えるわけではない。しかしながら、増加した支払額はローン終了までには一括返済しなければならず、最終的にローン利用者が負担することに変わりはない。

加えて言うと、一定期間(10年など)金利が固定されており、その後、変動金利に移行するような、いわゆる固定期間選択型商品の場合、救済措置が組み込まれていないケースがあるので注意が必要だ。こうしたローンを組んでいる場合、金利上昇分がそのまま支払額の増加につながるので、余裕のない世帯にとっては返済が滞るリスクがある。

いずれにせよ不動産価格の下落が続き、家賃も低い水準で抑えられていたバブル崩壊後の30年間とは状況が大きく変わっており、不動産に対する根本的な価値観の転換が迫られていることだけは間違いない。

もっとも戦後の日本において不動産に対する価値観が激変するのは2度目のことである。

戦前の日本政府は、太平洋戦争を遂行するため、国家予算の280倍という途方もない金額の財政支出を行った。ほぼ全額を日銀の直接引き受けで賄ったことから、戦後はハイパーインフレとなり、国民の預金はほぼ全額、価値を失ってしまった。その間、物価上昇分以上に価値が高まったのが不動産であった。戦争直後の日本で、一気に富裕層として台頭したのが土地所有者だったことは偶然ではない。日本経済が高度成長に入った後も不動産価格は上昇を続け、ちまたでは「土地神話」という言葉が飛び交うようになった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スリランカ、債務再編で予備的合意 125億ドル

ビジネス

米大統領、講演で経済政策を総括 取り組み継続も表明

ワールド

イスラエル、要人の暗殺計画阻止と発表 軍はレバノン

ビジネス

任天堂、ポケットペア社を提訴 「パルワールド」が特
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 2
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエルのハイテク攻撃か
  • 3
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁断の韓国ドラマ」とは?
  • 4
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 5
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 6
    岸田政権「円高容認」の過ち...日本経済の成長率を高…
  • 7
    「トランプ暗殺未遂」容疑者ラウスとクルックス、殺…
  • 8
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 9
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 10
    米大統領選を左右するかもしれない「ハリスの大笑い」
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 5
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 6
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に…
  • 7
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 8
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 9
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 10
    世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何な…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 5
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 8
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 9
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story