まるでビジネスドラマ...日本の製造業「最後の至宝」の元社長を招聘した台湾ホンハイの真意
KIM KYUNG HOONーREUTERS
<鴻海(ホンハイ)がEV事業トップに招いたのは、日本電産の元CEOで、創業者・永守重信氏に「切り捨て」られた関潤氏だった>
台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は、日本電産社長を事実上、解任された関潤氏(写真)をEV事業トップに招く人事を発表した。
日本電産はカリスマ経営者と呼ばれる永守重信氏が強烈な個性で業績を伸ばしてきた企業である。関氏は永守氏が後継者候補として三顧の礼で迎えた人物であり、市場は関氏が同社のトップを継承すると考えていた。多くのメーカーが没落した日本にとって、同社は日本の製造業の未来を担う数少ない企業の1つといってよい。
一方、鴻海精密工業は中華圏を代表するメーカーの1つであり、日本電産にとっては最重要顧客に相当する。一連のゴタゴタは各方面に大きな影響を与えそうだ。
関氏は以前、日産自動車のナンバー3を務めていたが、2020年、永守氏が口説き落として同社に迎え入れた。当初、両氏は蜜月関係にあったが、22年春に関氏が降格となり、永守氏がCEO(最高経営責任者)に復帰する人事が発表されたことで溝があらわになった。
関氏はその後も社内にとどまっていたが、対立は解消せず、永守氏が公の場で関氏を罵倒することもあったとされる。22年9月に関氏は退任。市場では同社の経営を引き継げる人物は関氏しかいないとの認識で一致していたこともあり、同社の株価は下がる一方となっている。
ドラマ的な面白さだけではない重要性
その関氏が、何と日本電産の最重要顧客である鴻海精密工業のEV事業責任者に就任することになった。EV向けの部品は、今後、日本電産が主力と位置付ける分野であり、収益の柱となる可能性が高い。
一方、現時点においてiPhoneなどの製造請負を主力事業とする鴻海は、急ピッチでEV事業へのシフトを進めており、日本電産から大量の関連部品を購入する可能性が高い。社長としての仕事ぶりが不満で更迭した人物が、何と、同社の未来を左右する最重要顧客の責任者になってしまったのだ。
経営者の人物ドラマとして非常に興味深い出来事といえるが、今回の一件に関して市場がざわついているのはそれだけが理由ではない。鴻海にとってEVは今後の中核事業であり、その延長線上において、日本電産という企業そのものに並々ならぬ関心を寄せていると噂される。
鴻海のトップである郭台銘(テリー・ゴウ)氏は勇猛果敢な経営者として知られ、欲しいものには資金を惜しまない。同社はかつてシャープを買収した過去があり、今回の人事によって日本電産への野心があらわになったとみる市場関係者は少なくない。
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