コラム

イギリスは北アイルランドに特に未練なし......日本人の知らない北アイルランドの真実

2024年02月27日(火)15時48分

北アイルランドはイギリスの領土の一部だから、英本土の人々は何としてもこれを維持することを望んでいるのだろうと思われているかもしれない。だがほとんどの人は北アイルランドに強いつながりを感じているわけではなく、むしろ厄介な存在だが自国の一部なだけに無視して荒れたまま放っておくこともできない、という感覚のほうが強い。

公平を期すために言うと、多くの人々は混乱の主な原因はイギリスの過去の過ちの数々にあると薄々気付いているから、現在のイギリスは問題に対処せねばならない「歴史的責任」があるのだ。

テロ組織IRA(アイルランド共和軍)が北アイルランドとの再統一を目指して爆弾テロを繰り広げていた頃、イギリス本土の人々の間では、手放したほうが楽になるからと言って北アイルランドのユニオニストたちを見捨てるわけにはいかない、という明確な感覚があった。

だがその後25年間の不完全ながらも平和と言える期間が続いた今となっては、北アイルランドのナショナリズム(アイルランド共和国への再統合を望む思想)に対する激しい敵意は薄らいでいる。そのナショナリズムはテロ活動のさなかには嫌悪されたが、今は正当な政治活動として受け入れられている。

奇妙な権力分担システム

もう1つ指摘したいのは、北アイルランド自治政府首相と自治政府副首相が同等の地位にあるという権力分担の仕組みの奇妙さだ。常識外れではあるが、互いに相手の方が上の地位だなどとは考えずに2つのコミュニティー双方が舵取りをするためのシステムだ。

これまでは常に、ユニオニスト(プロテスタントとも言える)が首相で、ナショナリスト(カトリック)が副首相を務めてきた。今回はそれが逆になり、ナショナリストのシン・フェイン党からミシェル・オニールが首相に就任した。だがこれは、歴史的大転換というより、象徴的な変化という意味合いが強い。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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