コラム

ソ連を脱したバルト諸国の発展を見よ

2022年10月26日(水)11時30分
リトアニア・ビリニュスの旧市街

ソ連時代の面影などなく自由で民主主義で繫栄しているバルト諸国(2018年5月、リトアニア・ビリニュスの旧市街) Ints Kalnins-REUTERS

<初めて訪れたバルト諸国には旧ソ連領の面影はなく、自由と民主主義を「勝ち取った」誇りと30年間の急速な繁栄が見て取れる。ソ連崩壊をいつまでも嘆いているロシアが余計に哀れに思える>

このブログのタイトルは「Edge of Europe(ヨーロッパの端)」で、もともとイギリスのことを意味して付けていた。イギリスはヨーロッパの一方の端に位置していて、EUのプロジェクトに身を捧げてはいなかったからだ。しかしながらこのタイトルの言葉は、最近僕が訪れて有意義な数日間を過ごした国々にこそよく当てはまるような気がする――バルト諸国だ。

バルト諸国はヨーロッパの中では比較的訪れる人も少ない地域で、人口の多い国々でもない。イングランド(人口5500万)よりはるかに広大な3カ国のエリアに暮らしているのは、ほんの600万人ほど。西ヨーロッパの人々はしばしば、どの国がどれか混同してしまう(正解は、北から南へ順にエストニア、ラトビア、リトアニア)。

僕たちのほとんどは、バルト諸国がロシアの飛び地カリーニングラードと本国ロシアの間に位置する「回廊」として存在していることを把握していない。あの侵略国家にサンドウィッチされた場所にいることを考えると、僕はゾッとした。

僕はバルト諸国の専門家ではないから、これは掘り下げた記事というよりは感じたことを述べたものにすぎない。それでも、時に新参者の「大まかなアウトライン」が、ベテランの「緻密な分析」では描き切れない洞察力を示す場合だってある。

僕にとって今回の旅行は、初のバルト諸国訪問というだけではない。かつてのソ連領を訪ねること自体が初めてのことだ。面白いのは、バルト諸国に旧ソ連の名残がほとんど見当たらないこと。もちろん、レーニン像などどこにもない。かつてのソ連時代には発展からかなり取り残されていた国々だったという気配すら、ほとんど見て取ることはできない。

今のバルト諸国は自由で、民主的で、栄えていて、先見の明のある国々だ。彼らと比較すると、ソ連崩壊を嘆くロシアの自己憐憫が、余計に哀れに思える。バルト諸国が、豊富な自然資源もないのに、この30年で成し遂げてきたことを見ればよく分かる。

ゴルバチョフ元大統領の死は、ロシアではほとんど惜しまれることがなかった。もしロシアが1991年以降のチャンスをつかんでいたとしたら、ロシア国民は確実に彼を「ソビエトの圧政を終結させた人物」として称賛してきたことだろう。だがそれどころか、彼らは現在、共産主義末期よりもなお悪いとも言えるような政府を抱え、帝国を消滅させたとしてゴルバチョフを非難している。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド、米相互関税に報復の可能性低い 協議継続=当

ビジネス

米国の関税措置、石破首相「極めて不本意で極めて遺憾

ビジネス

自動車各社、関税逃れの駆け込み需要に便乗 数カ月後

ビジネス

日経平均は大幅続落、2000円超安 貿易戦争激化へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story