コラム

イギリスで拡大する「持ち家」階級格差

2021年08月31日(火)14時40分

住宅は数々の問題にも通じている。貧しい人々の多くがブレグジット(イギリスのEU離脱)に投票した理由の1つも住宅問題だ。彼らはEUからの移民を制限したかったのは「人種差別」のせいではなく、人口急増で住宅獲得競争が激化するからだ。新型コロナウイルスでも住宅問題が影響している。規制を延々と続けるのに賛成するのは大抵、立派な住宅がある人々だ。

住宅価格インフレの原因についても、意見の一致は見られない。左派は、サッチャー政権の公営住宅払い下げ政策のせいでイギリス人が若いうちに高額な持ち家を購入しなければならなくなった、と非難する。右派は、労働党政権でゴードン・ブラウンが財務省だった当時、年金税制改革で大量の資金が「投資用賃貸物件」買い占めに流れ込んだせいだと糾弾する。

単に人口増加のせいだと非難する人もいれば、規制を緩和してもっと建設すれば済むだろうと指摘する人もいる。こうした開発は僕の住む地域でも進んでいるが、あまり支持されていない。地元の美しい景色が大規模団地に変えられ、地方の村々からはますます「こじんまりとした古風な趣」が失われていくことだろう。

若者はしばしば、住宅問題は悠々自適の「強欲なブーマー」世代のせいだと非難する。対する年配者の多くは、若者があんなに外国旅行やスマートフォンやテイクアウト料理にカネをかけなければ持ち家に手が届くだろうに、とこぼす(「私たちの時はそんな浪費はしなかったぞ!」)。

もちろん住宅危機はさまざまな問題が重なった結果だが、僕も1つ、特定の問題を指摘しておきたい。ブレアは規制緩和志向で、大規模な融資規制の緩和も容認した。それ以前は、銀行は年収の3倍以上の金額を融資することができなかった。これは自然と住宅価格の上限を決める働きをしていて、「平均的な住宅」は「平均的な収入」の3~5倍あたりの価格で動き、平均すると3.5倍ほどで落ち着いていた。

ところが銀行が年収の何倍もの金額を融資するようになると、限られた住宅の「供給」を圧倒する、より多くのカネ(「需要」)が投じられるようになった。「住宅適正価格」の崩壊はこの頃から始まり、緊縮財政や賃金伸び悩み、コロナ禍を経て劇的に悪化していった。今では、平均的な住宅価格は、平均的な年収の8倍以上だ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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