コラム

マスクはつけず手は洗いまくったイギリス人

2021年05月15日(土)17時00分

むしろ換気を軽視していた

今では科学的には、「媒介物」(科学用語で「物体」のことだ)を介したウイルス感染の可能性は非常に低い、という見解でまとまっているようだ。当初からずっと、このウイルスは息や飛沫を介して感染を広げてきた。

当然ながら、僕たちは「ソーシャルディスタンス」を取って他人と2メートルの距離を取るよう言われていた。でも、むしろこちらのほうが手洗いよりも注意事項としては先にくるべきだった。優先順位が逆だった。

コロナ危機の間、多くの人々が電車や店の中でマスクを着用することに乗り気ではなかった(建前上は義務化されたが、実際には強制はされなかった)。マスクを着けたがらない理由は僕には分からないが、ひょっとすると彼らは、実際のところ誰にも触っていないし、と思っていたのかもしれない......それに、いずれにしろ頻繁に手洗いしているからコロナに感染するはずがない、と。

大事な対策がないがしろに

だが、手が重視されたことは本当にやったほうがいい対策にまで影響を及ぼしてしまっている。たとえば、僕の通っているスポーツジムは最近になって再開されたが、あらゆるマシンを徹底的に清潔にしようとする涙ぐましい努力には驚かされた。会員は使用後のマシンをせっせと拭き消毒した。そしてスタッフはマシンにコロナ用の消毒液を吹き掛ける特殊な機材を手に巡回していた。

それ自体はいいことだろう。どのみち、接触を通じて広がる可能性のある細菌は山ほどあるだろうから。コロナウイルスも接触感染の可能性はあるかもしれないが、かなりまれだ。問題は、ここに力を入れることによって、感染予防に役立つもっとずっと大事な対策がないがしろにされてしまっていること。換気だ。全ての窓は閉まっていて、開けることもできない。ウイルスを分散させる空気循環システムもないまま、閉鎖空間で僕たちは運動している。

対照的に、僕の友人はアイルランド南部コークで、吹きっさらしの丘の上の学校で働いている。世界的に見ても温暖とは程遠い土地だ。ここで冬の間じゅう、全ての窓とドアを開けっ放しにして授業をしていたらしい。雨が降れば吹き込んできて、廊下や教室をモップで拭かなければならなかった。僕を含むイングランド在住の友人数人とのZoomで彼女がこの話をしたとき、僕たちイングランド人たちは、それはちょっとやり過ぎじゃないかと思った。でも、ここイングランドで誰もがやっているように、真っ赤になってヒリヒリするまで1日に10回も手を洗うほど、かなり的外れな対策に比べれば、やり過ぎとは言えないかもしれない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=1─2%下落、FOMCに注目

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 米は歓迎

ビジネス

アマゾン、第2四半期売上高見通し予想下回る 第1四

ビジネス

スタバ、第2四半期の既存店売上高が予想外に減少 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 6

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story