コラム

駐車場から見えるイギリス人の本性と次の経済危機の予兆

2020年02月04日(火)17時10分

それからある日には、「名目上」の一泊駐車の料金が4倍に値上がりし、やや高額な2ポンドになった。しばらくして夜間料金の開始時間は午後7時に変更になった(表示文の午後「6」時の数字の上には小さなシールが張られた)。そして最近には、また6時に変更されたようだ(小さな「7」のシールがはがされていた)。

券売機も利用者を混乱させている。ときどき、あまりに長い間立ち尽くしている人がいるから、馬鹿なんじゃないかと思われそうになる。でもある日のこと、僕が通りかかったとき、1人の年配のご婦人が僕に助けを求めてきた......そして僕も結局、謎が解読できなかった。最後には僕たちは、駐車券をまぐれ当たりでゲットした(僕は単に彼女のお金を券売機に突っ込んで、チケットが出るまでランダムにいろんなボタンを押してみただけなのだ)。

大勢の人が身の丈に合わない新車を買える謎

駐車場でいつも目にするマナー違反といえば、車内にいながらエンジンをかけっぱなしの人がいること。「アイドリング」はイギリスでは禁止されているが、ごく一部の人は、騒音や大気汚染や無駄なCO2排出にもお構いなしにこれをやっている。僕が道を歩いているとたいてい、アイドリングしている車が1台かそれ以上はある。時には、深夜に30分かそこらも続けている人もいる。

僕は何度か、エンジンを切ってもらえるように丁重に頼んでみたことがある。いつも、乱暴に断られて終わりだ。だから僕の理論では、アイドリングをするような自分勝手な人は、丁重なお願いを聞いてくれるようなタイプではない、ということになる。まるで「自分の車=自分の空間」だから、何でも好きなようにできると思っているようだ。

最後に付け加えておきたい発見は、今は「収入圧縮(earnings squeeze、収入の上昇がインフレ率を下回り、静かに貧困化している状態)」の時代にもかかわらず、ここ7年ほどで車の平均的な「質」が本当に向上した、ということだ。時々僕は、どうやったらこんなに大勢の人々が新しくて高価な車を買えるんだろう、と不思議に思っていた。そして、ひょっとすると自動車ローンが、イギリスの次の「サブプライム」危機になるのではと思い当たった。裕福でもない人々が、預金もなしに、理解もできないような複雑なローン契約を結んで、車を買うことができるのだ。

事実上、こうした自動車ローンの返済は、いずれ中古で売った場合にかなりの再販価値が見込めることを前提としているのだろう。もちろん、需要と供給の法則で見れば、こんな調子で新車が次々と買えるのだとしたら、いずれ中古で高く売れるなんてことはあり得ないだろうが。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が短距離ミサイルを発射、日本のEEZ内への飛

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story