コラム

情けない軽犯罪とルール違反が標準化するイギリス

2017年06月07日(水)16時30分

ほかにも近所には11年に開館したコルチェスターの芸術センター「ファースト・サイト」もある。とても金のかかったプロジェクトだが、大成功を収めたとは言い難い。問題の1つは、地元の子供たちが、建物の正面のスペースをスケートボードに最適な場所だと思ってしまったことだ。

この施設は洗練された会場となり、この町の文化的な名声を高めるはずだった。だがそれどころか、十代の若者が大勢たむろし、スケートに興じているから、人々は足を運ぶ気にならないようだ。

【参考記事】「認知症税」導入で躓いた英首相メイ

石造りの長いベンチの縁で「スケートボード乗り」ができないように、金をかけてベンチには鋲が取り付けられた。12年には、この場所でのスケートボードが全面禁止された。それから5年が経つから、おそらく今「スケートボード禁止」という表示を無視して滑っている子供たちは皆、新しい世代なんだろう。

もちろん、これらはどれも、衝撃的だとかニュースに値するというほどのものではないし、イギリス人だったらこれを読んでも「だから何?」と思うだろう。町には、さらにはイギリス全体にはもっとずっと深刻な問題がいくつもある。でも今回僕は、低レベルな犯罪と浅薄な規則破りがイギリスの町でいかに「ノーマル」になりつつあるかを説明したかった。

***


この不平不満を長々と書きつづり、原稿を送信する前に、僕はジムに行った。文章をより良いものにするために僕は、気分転換の時間を挟むことがある。今日はランニングマシンに乗りながら、「思いつく限りの例をつめこんだから、ちょっと原稿が長くなりすぎたかも」と考えていた。

そして帰り道、1台の車が僕の家の前の一方通行の道路を逆走してきた。1週間に1度は見かける行為だ(窓からじっと監視しているわけではない)。そういう車の運転手は駐車場から出る時にいったん停止し、正しい方向から車が来ていないかよく確認し、それからクイーンストリートまでの50メートルを、猛烈な勢いで逆走する。そうすれば、少しだけ近道になるからだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港が金融犯罪の重要拠点に、米超党派議員が関係再検

ワールド

レバノン停戦合意、米仏が36時間内に発表か イスラ

ワールド

ロシアのサイバー攻撃、対ウクライナ支援を脅かさず=

ビジネス

ダウ・S&P日中最高値更新、トランプ氏の財務長官指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 3
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 4
    テイラー・スウィフトの脚は、なぜあんなに光ってい…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 7
    日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心...エヌビ…
  • 8
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 9
    またトランプへの過小評価...アメリカ世論調査の解け…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story