コラム

英労働党トップに無名(?)強硬左派、の衝撃

2015年09月18日(金)17時30分

 つまり、労働党の場合はこう考えたのだろう。今の労働党がまるで「保守党を水で薄めたような」政党と化しているために投票してくれなかった有権者がいる、今度こそ彼らの支持を得られるような選択肢にならなければ、と。

 コービンの集会や演説を目にする機会があった人は、その楽観的で熱狂的な雰囲気に驚いたに違いない。問題は、それを労働党以外の人々とは分かち合えないだろう、という点だ。彼らは国民の広い支持とは引き換えに、「真の労働党」の理念を貫こうとしてきた。そして、強い信念で突き進めばいずれ世界も彼らについて来るだろうと考えてきた。

■政権からは遠ざかる羽目に

 労働党は以前にもこのパターンを経験している。1979年の総選挙での敗北の後、党内左派のマイケル・フットを党首に選出。1983年の総選挙でフット率いる労働党が発表したマニフェストは社会主義色満載で、「史上最も長い自殺の覚え書き」と呼ばれたことは有名だ。でも彼らは会議で嬉々として労働歌『赤旗の歌』を歌っていた。

 フット党首で臨んだ総選挙は、労働党を引き裂いた。フットに反発し、多くの支持者や労働党議員が、新たに結成された社会民主党に流れたのだ。おかげで労働党は、トニー・ブレアが90年代半ばに党を中道路線に引き戻すまで、長いこと政権から遠ざかる羽目になった。

 コービンもまた、党をまとめるうえで問題を引き起こしそうだ。労働党議員は彼のことを、党を長期間荒し回る厄介者だと思っているのだから。

 一方で保守党も、97年にブレアに地滑り的勝利を奪われた後、同じ過ちを犯した。その後に誕生した2人の保守党党首(ウィリアム・ヘイグとイアン・ダンカンスミス)はいずれも右派で、党内の人気は高いが大抵の国民からは非常識だとか不適切だと思われていた。保守党は分裂こそ免れたものの、党の再建は遅々として進まず、辛うじて政権を奪還したのは金融危機という劇的な変動が起こって労働党政権が信頼を失ってからだった。

 政治は驚きに満ちたもの。とはいえ、同じくらい劇的な地殻変動が起こらなければ、コービンが政権の座につくことはありそうにない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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